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主にサークル小麦畑様のゲーム「冠を持つ神の手」の二次創作SS用ブログです。 他にも細かいものを放り込むかもしれません。
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トッズ愛情A後

アネキウスの恵みである雨が降り注ぎ、まるで薄いカーテンのように景色を紗にかけている。
遠く雷の音が聞こえてくるから、おそらく雨はこれからひどくなるのだろう。

「何見てんのー?」
「外」
「それ返事になってないよーレハト、もっと具体的に言ってくれないと。雨とか空とか、色々あるでしょ」
「そとー」

ふざけた言葉にふざけて返してから、レハトは窓から外を見ていた視線を外した。
小さくてあたたかな小屋、毛織物とはいえ薄い絨毯の上に座る男が、手元を動かして何かこさえている。
布で作られた不器用な人形は、ひどく懐かしく見えてレハトの笑いを誘った。

「あ、なになに、今なんで笑ったの? 俺お手製の人形、こんなかわいくできたのに」
「かわいいっていうか……まあかわいいかな、一度見たら忘れられないよね」

手を伸ばせば、はい、とそれが渡される。くたくたとした手触り、ちょっといびつな目と口。
かわいいというか愛嬌はある。うん、まあかわいいの部類だろうか。
眺めていれば、男は立ち上がった。外の雨の様子を見て、窓に木戸を下ろす。
部屋が薄暗くなった。明り取りのための小さな窓から、薄明かりだけが入ってくる。
雨の音が聞こえる。

「閉じなくてもいいのに」
「降り込んできそうだったからねー、レハトは今大事な時期だし」
「過保護だよ。もうあとは待つだけなんだから」
「そのあと少しが肝心なんでしょうよ」

男の手がレハトの肩に触れてから、ゆっくりとふくらんだ腹に触った。
この場所に腰を落ち着けて随分たち、自然な流れで夫婦ものとして生活をはじめて、アネキウスはそんなありふれた二人に授かりものをくださった。
そのことに、信仰心なんかかけらもなかったはずの男がひどく感謝したことをレハトは知っている。
神の寵愛者を攫い、居るべき場所より遠く引き離したのだから天罰が当たってもおかしくはないのかもしれなかったが、与えられたのはむしろ恩寵であったように思えていた。
魔の草原に近い始まりの森のそば、人があまり住まない場所ではじめたほぼ自給自足の生活。
球菜の畑と麦畑は、レハトが手入れの仕方をよく知っていたおかげか豊作とはいかないが凶作ともならず。
最初はつがいの二頭だけだった兎鹿も今は四頭に増えた。
決して安楽ではないが順調で、そんな生活に縁のなかったはずの男は文句をたまにこぼすもおおむね楽しそうにしている。
こういう生活がしたかったらしい。ずっと、ずっと長い間。
そんなささやかな願いはようやく叶えられたのだろう。
男の手が腹を撫でる。やけにやさしく、おっかなびっくりの手つきだ。

「大丈夫だよ」

この人が本当に欲しくて、自分もきっと長く望んでいたものが手に入るのはもう少しだ。
やってくる家族のために作られたとおぼしき不器用な人形を、レハトは抱いて笑う。
雨の音はいつの間にか激しさを増していた。それでも小屋の中はあたたかく乾いていて、雨がやめば、空にはアネキウスの祝福の印たる虹が輝くのだろう。きっと。

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