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主にサークル小麦畑様のゲーム「冠を持つ神の手」の二次創作SS用ブログです。 他にも細かいものを放り込むかもしれません。
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ヴァイル愛情A後、男ヴァイルと女レハト。
レハト王配。

ヴァイルは小鳥の声で目を覚ました。最近、部屋の露台に来るようになった雀たちだろう。
なんで鳥がそんなところに、と思ったがどうやらレハトがささやかに餌をやっているらしい。
とはいえ、食後のパンくずを撒く程度のようだけど。
その声につられるようにして、ベッドが少しきしんだ。隣に寝ていたレハトがおそらく起きたのだろう。
体を起こして立ち上がる気配に、ヴァイルは手探りで、その体に触れた。まだ目が開かない。
多分触ったのは腿だろう。薄い寝巻きごしの体温に、そのまま擦り寄った。

「……レハトー」
「あれ、起きちゃった?」
「まだ寝るつもりだけど」
「もう起きないと、アネキウスの位置が結構高いよ」
「いーやーだー、もう少しこうしてる」
「はいはい」

レハトの細くて、華奢な指がヴァイルの髪に触れる。
自分のためにと女を選んでくれたレハト。篭り明けに見たら、やけに小さく細くなっていた。
それは自分が大きくなったからであって、レハトも別に女として小柄すぎるというわけではないらしい。
膝にすりよったまま流れで、腿に頭を乗せるとふかふかと柔らかい。母を物心つく前に亡くしたヴァイルにとって、女性にこういう甘え方をした経験はあまりない。
だが世の子供らと大人の男がしたがる気持ちはよくわかった。
くすぐったいと文句も言わずに、レハトはヴァイルの頭を撫でる。いやらしい意図よりも、単に自分の体温に甘えたいだけだと思っているからで、それは確かに間違ってはないのだ。

「朝食をとる時間がなくなるよ」
「それは嫌だ」
「今朝は、木苺入りのパンを焼くって聞いたよ」
「まじで? やった、俺あれ好きなんだよな」
「それにリネク桃のジャムと、土豚の燻製と百合の花芽を炒めたのと、玉葱と人参のスープとー」
「豆は?」
「豆はなし」

贅を尽くしたわけではないが、しっかりした朝食だ。
最近どうも、レハトは厨房に顔を出してはあれこれと注文をつけているらしい。
とはいえっても我侭三昧というわけではなくて、ヴァイルの口に入るものを自分でちゃんとしたいから、だとか。
そのうちパンを焼いたげるね、と言われてはヴァイルもそれが王配に相応しくないとかはいえない。
むしろ王配として一番の仕事とも言えるのではないだろうか?
夫の口に入るもの、夫の味方の口に入るものを自ら作れば、そこには毒や異物を心配することはない。

「豆がないなら食べようかな」
「本当に嫌いなんだね」

レハトは豆が嫌いではない。むしろ好きだ。だがヴァイルと食事するときは控えている。
豆がいかに優秀な作物であるかを説いても、そういう次元ではないのだろう。

「ここで食べる? 持って来てもらって」
「そうしたい」
「じゃあ侍従を呼ぶから、どいてくれる?」
「だめ」

足がしびれるよ、とも言いたかったのだがヴァイルは譲らない。
朝のほんの少しの寝坊と、少しだけのわがままでレハトを困らせることも、困っても何があっても自分のそばにいてくれる人がいることも、何もかもが心地良かった。
張り詰めて伸びきっていた弦がゆるんで、たわんで、逆に切れずにすむような心地でいる。
アネキウス様がレハトを自分にくれたのだ。ずっと傍にいてくれる人を。もし手が離れたとしても、すぐにまた会える、昼間は互いの仕事と領分が違うからなかなか顔を合わせることはできない。
最初のうちこそそれがわずかに不安だった。
でも、今はそれもない。

「朝ごはんだよ、ヴァイル。食べないと力が出ないよ」
「こうしてる方が力が出る」
「甘えたれ、村の子供だってヴァイルほどじゃなかったのに」
「出た、レハトの村の子供だってが出た」
「ヴァイルが子供だからだよ」

村の話が出ても、心はちくちくしない。大人になって、見違えたと周りがほめそやすのにちゃんと応えてはいるけれど、レハトの前でだけ、長い間置き去りにしていた稚気を引っ張り出す。
髪がきれいに梳かれて、気持ちがいいしレハトの膝はあたたかくていい匂いがして、小鳥の声が聞こえる。
レハトが業を煮やして侍従を呼ぶ鈴を鳴らす。朝食もこのままでいいんじゃないか。侍従たちに多少見られてもかまいもんか。結婚してるんだし。

レハトとなら子供が欲しいけれど、もう少しの間は自分が子供みたいに甘えていたかった。

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