忍者ブログ
主にサークル小麦畑様のゲーム「冠を持つ神の手」の二次創作SS用ブログです。 他にも細かいものを放り込むかもしれません。
[25]  [24]  [23]  [22]  [21]  [20]  [19]  [18]  [17]  [16]  [15
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ルージョン愛情A後


ちりちりと首の後ろを焼くような感覚があり、何ともいえぬ妙な気配が空気に満ちていた。
おそらく、この場所で修行をしているもう一人が放っているのだろう。
ルージョンはため息をつきながら、汲んできた水を甕へとあけた。
自分なんかよりよほど、レハトは魔術の鍛錬に熱心に思える。
何故なのかは想像の域を出る事はなかったのだが、あの子供……いやもう成人したのだが、には恐れというものがないかのようだ。全身これ好奇心であり、無邪気ですらあって、欲しいものに手を伸ばすのにためらいがない。
自分もまた、そんな手に捕まってしまったのだ。
そう思うと頬が若干熱くなってしまう。彼を男として愛しているかどうかは、まだわからない。
そもそも男とそういう仲になれる自信など、まだルージョンにはないのだ。
だがおそらくレハトは待つつもりだろう。ルージョンがそういう気分になる時までを。
男にそんな器用な真似が出来るとは思わなかった、肩をそびえさせてから彼の居所へと向かう。
森の中にある大きな木の根元に、案の定その姿はあった。

「レハト、何時までやってるんだい」
「……ルージョン?」

足を組み、瞑想に深く入っていたらしいレハトは声をかけたことで目を開ける。
とたんにふっと周囲に漂っていた妙な気配が消えて、風がわずかに吹いてきた。
レハトが展開していた魔術を収束させたのだろう。

「ルージョンだ」

まだ開ききっていないのか、目をこすってレハトはそんな風に言った。
ルージョンは呆れたように見下ろしながら、その傍まで足をすすめる。

「お前にしては、一度呼んだくらいで戻ってくるとはね」
「丁度浅くなってたから」
「何をしていたんだい、また木と波長を合わせようと無駄な努力をしてたのかい」

呆れたやつだ、とルージョンは息を吐き出した。魔術を使って自分の外に意識を広げ、小鳥や栗鼠のような小さなものをある程度操ったり、目や耳を借りることは難しいが出来なくはないことである。
ただ、同じ動物ならばともかく、植物と人間は波長がうまくかみあわないためにそうした事はできないのだ。
一度溜めさせた時に、うまくいかないことはよくわかっただろうに。
レハトは凝りもせず、植物に意識を沿わせようとしていた。勿論、瞑想の片手間にという感じだが。

「今日はちょっとうまくいったんだよ」
「ふうん? どういう風に」
「水の流れが感じ取れた、気の流れも少しだけ。土の中から根へ、幹へ、それから葉へ、地から天へどんどん昇っていくようだった」
「それで?」
「幽かな……なんだろう、幽かな生物、としかいいようがないけど、そういうのもちょっと感じた」

背を木へとつけて、レハトは夢を語るように口にする。いったいその幽かな生物とやらが何なのかはわからないが、水の循環を捉えられたというのは単純に水を嗅ぎ取っただけだろう。
ルージョンからすれば、植物を操るなんて無駄なことだと思うのだが。

「変わってるね、もっと派手なのを教えてくれって言うと思ったのに」
「勿論そっちも教えてもらいたいよ。木の実を持ち上げてぶつけるやつとか」
「……」

ぽすっとレハトの頭を軽く殴ってから、ルージョンはため息をついた。嫌味のつもりがないのはわかっているが、妙に腹立たしい。

「木と交信して、何かわかるかい」
「わかるよ。彼らも生き物だってことが」
「そんなものは、見るだけでわかると思うけどね」
「そうかな」

レハトの手がルージョンの手に伸びる。大きな男の手が、繋ぐように触れてくる。ルージョンはそれは拒まない。ただ顔が赤くなるのに、レハトは少しだけ笑った。
引き寄せれば、素直に座るが仏頂面だ。

「目を閉じて」
「何をする気だい」
「男の僕より、ルージョンのほうが多分うまくやれる」

――瞑想に、交信に引きずり込む気だ。ルージョンは一瞬ぎょっとしたが、己の中にもある好奇心が勝った。ルージョンもかつて、老魔女に師事していた頃に植物の気の流れを確かめたことがある。
結果は惨敗だった。植物の気は散文的とでも言うべきか、とっちらかっていて、あやふやで、まるで荒れた波を流れ落ちる砂を相手にしているようにつかみどころがなかった。
手が繋がれて、そこからじわりとした熱が伝わる。目を閉じて視界を塞げば、それ以外の感覚が強化された。

うっすらと、何かが二人の間を流れていく。水か空気か、それは下から上へと巡る大きな循環の一部か。
足の指先がむずむずして、何か、理解が及ばぬほど小さなものの群れの気配がある、幽かな生物とレハトがいったものか、それが木の傍に無数に存在している。大きく堅く、やはりあやふやで、動物のように確かな意思らしいものが捕らえられない。あるのは流れだけだ。
上昇していく力、魔が棲む地の底より、神の座す天の頂へといたりゆく力。
生物とは閉じた殻であり、生命はその殻より零れぬようにしながら存続している。
意思も同様であるが、魔術師はその意思を伸ばすことができる。己の身体という不自由な殻より外へ。
植物は違う。中核となる植物本体の生命を覆う殻は天と地に対し開いている。取り込み、放出する、流れを生み出して己もその一部になりながら、己の生命を零すことはない。
ルージョンは慌てて手を離した。
それに呑まれてしまいそうだった。

「な、なんだ今の」
「……うわー、あんなはっきりしたの初めて」
「凄いでしょ?」
「き、気色が悪いだけだ、あんなもの! わかりあえる気がしないじゃないか」
「まあわかりあうのは無理っぽいけどね」

レハトは木の幹を撫でてから、友人にするように腕を回してそれから背を離す。

「この木くらいの大きさがないと、汲み取れないし」
「そのへんの草や花では無理だって?」
「うん。もっと大きな木がたくさんあるところなら違うかもしれないけれど」

行きたいというわけでもなく、言えばレハトは立ち上がってからルージョンに手を差し出した。
それを取ればどちらともなく足を前に出して、家へと向かい始める。
背の伸びたレハトは、歩調をルージョンに合わせてくれていた。まったく、城での教育が抜けきっていない。

「あれはお前にとってどういう意味を持つ?」
「ん?」
「あの修行だよ」
「……魔力を高められる気がする、世界に満ちる力の流れをより捉えられる気がする」
「それ以上高めてどうするんだい」
「んー」

勝たなきゃいけないやつがいるんで、とやけに小さな声で言うものだから、ルージョンはあきれ果てた。
あきれついでに、ぎゅっと指も強く、握っておいた。

拍手[15回]

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
<< rain, rainy, rainbow HOME blade >>
プロフィール
HN:
Lenoa
性別:
非公開
自己紹介:
Lenoaです。Aloneのアナグラムです。
最新記事
(01/13)
(01/12)
(05/12)
(02/06)
(02/05)
ブログ内検索
カウンター
バーコード
忍者ブログ [PR]