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主にサークル小麦畑様のゲーム「冠を持つ神の手」の二次創作SS用ブログです。 他にも細かいものを放り込むかもしれません。
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【ブレスオブファイア5 ドラゴンクォーター】

リュウとボッシュが組む前の話。結構古い。ノーマル。
多少の流血描写があります。




「ナニコレ」

ボッシュ=1/64が、相棒であるリュウ=1/8192のロッカーを初めて見たときの第一声は、まずこれであった。
組まされたばかりで、その人となりもまったくわからないローディーの相棒。
そのロッカーの中身は、タオルが一枚かけられ、中には様々な武器がいっぱいにつめこまれている以外は何もなかった。
ボッシュの言葉に、リュウは何でそんな言葉が相手から漏れたのかサッパリわかっていないふうに、目を少し大きくして首を傾げる。

「なに?ボッシュ。」
「…いや、おまえのロッカーの中身。こんだけ?」

問いかけに、その真意を測るような一瞬の沈黙をはさんでからリュウはそうだよ、と何事もないかのように(実際、彼にとってそれはなんでもないことなのだろう)答えた。
ボッシュが何ともいえない表情をつくっているのを見ても、それについてさらに言葉を重ねることもなくリュウは逆に相手のロッカーを覗く。

「すごい本だね、それ紙の本?」
「…ああ、そうだよ、ローディーまさか読んだことないなんて言わないだろうな?」
「ないよ、アンティークだろう、それ。おれデジタルブックしか見たことないよ。」
「貧乏人のローディー。」

リュウの、下層区民のD値ではアタリマエの言葉にボッシュは鼻で笑った。
その態度にも怒るようなそぶりはなく、ただリュウは「そうだね」とばかりに小さく笑う。
目を少しだけ伏せ、口端をわずかにあげたささやかな笑みの横顔にボッシュはまたふんと鼻を鳴らした。
あの女隊長も、どうやら何の考えもなしにこのローディーのサードレンジャーと自分を組ませたわけではないようだ。
レンジャーの中でもトップクラスになる実力を持つボッシュと、おちこぼれのサードを組ませてパワーバランスをとっただけかと思ってはいたが、むしろ性格的なところを見たのだろう。
リュウが紺色に赤いラインの入ったサードのジャケットを脱ぐのを見ながら、ボッシュはもう一度ロッカーの中身に目をやった。
中に丈夫そうなボックスが一つ、そこに剣が何本もつきたっている。
長いもの、短いもの、細身のもの、肉厚のもの。
盾や銃器、爆弾らしきものもつっこまれているのが見える、戦いに必要なもの以外には洗いざらしのボロボロのタオルと、同じようにボロボロの普段着がおなさけのようにかかっているだけ、他には何もない。
すでにリュウはゴーグルとグローブを外してテーピングのある手をさらしていた。
ベルトを外そうと手をかけてから、ボッシュのほうへとふっとリュウが目を向ける。

「ボッシュ、着替えないの?今日はもうスクランブルでもないかぎりは何もないんだから、シャワー浴びて休んじゃおうよ。」
「おまえ、ローディーのくせに生意気。シャワーは俺が先な。」
「うん、わかった。」

乱暴にジャケットを脱ぎはじめたボッシュに、リュウはやれやれとばかりに笑って相手の言うことにしたがった。

 

サードレンジャーにあてがわれる部屋は、狭い空間に二段ベッドがしつらえられているもので、私物をいれるロッカーや棚に、小さなテーブルとテレビはあるもののおよそ人間が暮らす場所ではない。
とはいえ、そう思っているのはハイディーであり大きな屋敷に住んでいたボッシュだけであろう、リュウはその小さな部屋に満足しているようだ。
ボストンバック一個ですんでしまうようなわずかな私物を持って、リュウはボッシュのいる部屋にやってきた。
ボッシュのパートナーが変わるのはリュウで四人目、他人との共同生活や共同作業というものが苦手なボッシュは、組まされる者という者すべてと衝突し全て追い出してきたのである。
それを受けて、レンジャーの中では最低ランクといってもいいほどのD値のリュウが、「おとなしい」から選ばれたのであろう。

(まあ、どうせ)

バックの中から、数着のシャツやズボンを取り出すリュウの後姿を見ながら、ボッシュはテーブルに肘をついて考えをめぐらせていた。

(すぐに出て行くんだろうな、コイツも)

神経を逆撫でするようなことを言ってやれば、だいたいは向こうが勝手に怒って出て行くのだ、そうすれば今度こそ、一人でやらせてくれるかもしれない。
ローディーのサードなんてお荷物はいらない、一人のほうが任務だってうまくやれるとボッシュは思っていた。
ロッカーに服と、それからまた武器、一振りの長い刀と、懐中電灯にしか見えない柄だけのレーザー刀、支給品の盾に小さなポーチをいれてからリュウはこれでおしまいとばかりにロッカーを閉じる。
任務に入る前にレンジャースーツへ着替えるためのロッカールームならまだしも、自室のロッカーにまでそんなものをいれる理由がボッシュにはわからなかった。

「…おまえさあ。」

ボッシュは、テーブルに両肘をついてから、コドモがするように両手で頬を支えてリュウに言葉を投げた。
それにリュウが首をかしげながら振り向き、どうしたのと返事をかえすまえにボッシュはやれやれと溜息をつきながら言う。

「なんか、機械みたい。」
「…そうかな。」
「ああ、ぶっちゃけ不気味。人間らしさ感じないね。」

片手を頬から外し、ひらひらと振ってみせるとリュウは明らかに戸惑った顔でそちらへ視線をやる。
なんと言ったらいいのかわからないとばかり、沈黙し言葉を捜すリュウにボッシュは畳み掛けた。

「ローディーってのは人間らしい感情とか趣味とかもないわけ?」
「…。」

リュウは、困った顔のまま首をわずかに、否定するように横に振る。
それから、リノリウム張りの床にぺたりと座りこんでから、ロッカーに背をあずけた。
やや遠い距離、椅子に座っているボッシュを見上げながらリュウはようやく口をひらく。

「ローディーだからって、人間じゃあないわけじゃ、ないよ。」
「言うねえ。じゃあ、おまえが特別?」
「そうじゃない。…おれは、ボッシュから見たらそんなに機械みたく見える?」
「見えるね。」
「それは、おれがボッシュの言葉にいちいち怒ったり、しないから?」

リュウの言葉は、まるで「言っていいものかどうか」と迷うような響きをもちながらもはっきりとボッシュに告げられた。
問いかけのあと、返事をただ静かに待つリュウの顔をみているとボッシュはふいにむかむかとしてきた。
相手の物言いでは、まるで自分のほうが格下のようではないか。
ばん、とテーブルを叩きつけるようにしてボッシュは椅子から立ち上がった。
その肩がわずかに小刻みに震えているのをみて、リュウは目を瞬かせてから閉じると、膝をひきよせて抱え、顎をそれにのせた。

「ねえ、ボッシュ。」
「なんだよローディー、おまえもう口開くな、ウザイ。」
「いいから聞いてよ。おれたち、まだ組まされた初日なんだから、わからないこといっぱいあって当然だと思うんだ。」
「へえ、それで、ちょっとずつ理解しあっていい相棒になりましょう、か?」
「…だめかな。」

目をようやく開いて、困ったように眉をさげたままリュウが笑った。
ボッシュにとって、こういう「仲良くしましょう」という人間は大の苦手だ、むしろ蔑んでいるといってもいい。
他人となんて馴れ合って何になるというんだ?

「よく聞けローディー。この俺、剣聖に連なるボッシュ=1/64にとっては、サードレンジャーなんかただの通過点にすぎない。まあ、武者修行みたいなもんだな。」
「うん、そうだろうと思うよ。」
「だが、1/8192なんてローディーにとっては、ここが人生の終着点だ。これ以上はなにをどうやったってありえない、わかるな?」
「うん。」
「そんな二人が組んだって、短い付き合いにしかならない。オーケー?わかるか?短ければ数ヶ月でコンビは解散、そうなることが目に見えてて交流を深めたって無駄だろ?」
「無駄じゃないよ。」

コドモに言い聞かせるように喋っていたボッシュが、リュウのきっぱりとした返事を聞いて思わずはあ?と間抜けな声で聞き返してしまった。
リュウは、一度頷くと視線をまっすぐにボッシュへ向けて、モウ一度くりかえす。

「無駄じゃないよ、ボッシュ。」

ローディーっていうのは、言語理解能力すら低いのか、とボッシュの頭の中を言葉がよぎるが、喉がつまったようになってしまってそれを声にのせることができない。
何か得体のしれない感情が、ボッシュにその言葉を言わせることをためらわせているのだ。
それが何か、ボッシュにはわからない、だからそれを知っている感情の中でもっとも手触りの似ているものへと彼は置き換えた。
怒りだ。

「ホンットにうざったいローディーだな、死んでいいよ、おまえ。」

冷たく言い放つと、ガツンと傍にあった椅子を蹴飛ばす。
二人の声以外、何も物音がなかった部屋の中に椅子が倒れる音はいやに派手に大きく響いた。
倒れた椅子を見てから、リュウが何か辛そうな顔をして首を横に振る。

「ボッシュ」
「てか、何俺の名前タメで呼んでるんだよ。おまえやっぱ生意気、機械みたいっていったのは取り消してやるよ。ムカつく。」
「…じゃあ、どう呼べばいいのかな。」
「呼ぶ必要もないね。おまえがさっさと出て行けばいいんだよ、おまえみたいなムカつくのと組まされてたらむしろ俺任務に支障が出るし。そういってゼノんとこ行けばおまえはお役御免、俺は晴れてうざいローディーから解放されて自由の身だ。」

一気にまくし立てる口調が、やや感情的になっているのも隠せないままボッシュは部屋の出入り口へ向かった。
リュウの傍を通りすぎるとき、まだ座ったままのそいつを蹴飛ばしてやろうかと思ったが、そうやって構うことすらイヤになってただ素通りした。
視線が背中にむけられていることが、わかる。
ボッシュはそれに振り返ることはなく、ドアを開けてそのまま真っ直ぐ隊長室へと向かった。

 

すでに一般勤務時間はすぎていたが、レンジャーの隊長であるゼノ=1/256はその執務室で未だに書類のチェックをしていた。
ノックもなしに、大股で入ってきたボッシュへゼノは眼鏡をかけなおすと鋭い眼光を向ける。

「ボッシュ=1/64。何用かは知らないが、無許可で隊長室に入るのは…」
「何アイツ、あの1/8192!スゲェむかつくんだけど。」
「…。」

自分の注意が終わる前に、己の主張だけを述べたハイディーの部下にゼノは溜息をついた。
チェックしていた書類をわきにのけてから、椅子に座りなおして相手の話しを聞く姿勢をとる。

「リュウ=1/8192に、何か問題でも?」
「問題どころじゃねえよ、むかつくし。てか、やっぱ俺の相棒が1/8192って間違ってるだろ、せめてあんたと同じくらいのやつ、いないの?」
「…最初に組んだ相手は、1/512だったはずだが。」

疲れた溜息をついてゼノは肩をすくめた、このワガママな部下がこうやってかけこんでくるのはこれで五度目になるが…初日にいきなり、というのは最短記録更新だ。
興奮している様子のボッシュや彼の相棒だった者に、どうしたものかと頭を悩ませるのもいい加減終わりにしたくて、秘蔵っ子のリュウを相棒につけたのだが…どうやら逆効果だったようだ。

「あいつ、D値の差ってのわかってないね。このボッシュ=1/64と対等みたいな口ぶりだよ。頭おかしいんじゃないの?」
「…たとえ一時期でも、バディを組む以上両者は対等と扱われる。それがわからないあなたでもないと思うが。」
「にしたって、限度ってものがあるさ。とにかく、今すぐあいつを追い出して、俺は一人でやらせてほしいね。」
「…せめて、任務を一度こなして様子をみなければ判断はできない。まだ組んでから半日もたっていないのだから、もう少し我慢をしてくれ。」
「ハァ?このボッシュ=1/64に我慢だって…」

平行線をたどる話しに、お互いがいらついているのが手に取るようにわかる。
そんな時、ゼノのデスクに置かれた通話機にコールがはいった。
クリーム色のプラスチックでできた受話器をとると、激しく明滅をくりかえす赤いボタンをゼノが険しい顔で押す。
ボッシュにも、そのランプの色が意味するところはわかっていた。
コード・レッド、緊急事態発生である。
ボッシュは、ちっと舌打をすると腕を組んで壁によりかかった。

「…わかった、スクランブルを出す。持ち堪えてくれ。」

ゼノはそういうと、ガチャンと音をたてて受話器を置いた。
それからすぐに、レンジャー基地内全てに放送を送るべくマイクをとり、赤いボタンを押す。
扉ごしに、ビーッビーッとけたたましい警戒音が鳴り響くのを聞きながらボッシュはかったるそうに天井を見上げた。
ゼノはすでに、そんな彼を気にもしていないように自らの職務をこなしている。

「基地内で待機中の全レンジャーに告ぐ。下層区リフトに大量発生した邪公が線路ぞいに街へ向かっているとの情報がある。公社からのリフトがすでに一つ破壊され、その護衛にあたっていたレンジャーは重傷を負っている。全レンジャーに告ぐ、スクランブルだ、出られるものは装備を整えてリフトに向かえ。」

ハスキーボイスが淡々と告げる内容は、それでも楽観できるような内容ではない。
リフトの線路ぞいにディクの群れが街へおしよせれば、街で暮らす一般の住人は太刀打ちすることなどできず死んでいくだろう。

(でも、それがどうだっていうんだ?)

ボッシュにとっては、ローディーなんてクズがどれだけ死のうが関係はなかった。
だが、そこに戦いがあり、そしてレンジャーとしての任務があるのだから、征かぬわけにはいかない。

「隊長さん、それじゃ、話しの続きはこれが終わってからな。」

まるで笑っているような声でボッシュは言うと、ゼノの返事を待たずに扉をくぐり外へと向かった。
その後姿に、声をかけるすきもなく行かれてゼノはもう一度溜息をつく。
眼鏡を指で押して正すと、自らも出陣するべく腰に下げた紫音剣の位置をおろした手で確かめた。

 

スクランブルの赤いランプを、リュウはどうしても好きにはなれなかった。
このランプが基地にともれば、街にも赤い光と警戒を呼びかけるアナウンスが流れる。
瞬間、どれだけ平和であれ街は騒然となり、しまいには通りからは人が消えてがらんとなるのだ。
下層区で育ったリュウにとって、それはほんとうに恐ろしいことだった。
部屋のロッカーにさっきいれたばかりの武器と盾、あると便利なトラップ用品や傷薬をひとまとめにして入れておいたポーチを掴むと、ロッカールームに向かう時間すら惜しみ防御効果のあるスーツに着替えることもなく、それを身につける。
むき出しの腕に盾をベルトで固定し、ポーチを腰に簡単に巻き、テーピングをした利き手に剛剣を持つとメーザーはポケットへつっこんだ。
そのままの格好で部屋の外へ飛び出すと、リュウは灯りも持たずにリフトへと駆け出す。
基地の中がばたばたしているのを、人がきをわけながらただ、走った。
一秒でも一分でも早く、リフトへ向かおうと。

 

「ナニアレ」

隊長室を出てからロッカールームへ向かう途中のボッシュは、ほとんど普段着に武器だけをもって基地を飛び出すリュウの姿を遠目にみて、思わず呟いた。

「あれ、オマエ見たことなかったの?」
「リュウの“出陣”な。いつ見ても命知らずだよなあ。」

呟きを拾って、周りのサードたちが「ハイディーの知らないことを知っているという優越」にひたってでもいるように口々にそうボッシュに声をかける。

「あいつ、よくあれで死なないよな。」
「PETS上手いんだよ、ああ見えて。」
「イノシシにしかみえねえのになあ。」

意外―とばかりに話しながら、サードたちはロッカールームに入り、てきぱきと慣れた仕草でスーツへと着替えていく。
ボッシュはそんな言葉を聞きながら、緑色のスーツへと着替えてグローブをぎゅっとはめた。
リュウとは違い無様なテーピングもしていなければ、爪をみっともなくつぶしてもいない、それでも、戦うものらしい大きな手へ目をちらとやる。

「あいつ頑張るよなー、ローディだからサード止まりなのによ。」
「そうそう、別に褒めてもらえるわけじゃないのにな。」
「いや、ほらあいつ隊長のお気に入りじゃないか。点数稼ぎなのかもしれないぜ、案外。」

細く尖った刀身のレイピアを手に取ると、ボッシュは一度大きく息をはいてからロッカーの扉をガン!と大きな音をたてて蹴り閉じた。
その大きな音に、周りのからかいまじりの雑談がぴたりと止まる。

「ローディーってのは、他人の噂しか能がないの?救えないね。」

冷笑のまじった言葉を目を向けずに向け、鋭い切っ先をもつ刃を腰へと移す。
ふん、と笑いながらも何の返事もかえってこないことに、ボッシュは何かに気付いてああ、と小さく声をもらした。
ここにリュウがいれば、きっと「そんなことないよ、ボッシュ」とあの困った顔でいうのだろう。

(そういえば、口答えなんかしてきたの、あいつがはじめてなんだな)

背中に感じる視線で、おそらくゴミかなにかを見るような目でこの場にいる全員が自分を見ているのだろうとすぐに察しがついた。
だからボッシュは、あえて振り向いてから嫌味に笑ってみせた。
そうやってローディー、他人を蔑んで壁をつくることが、ボッシュにとっては一番楽な生き方であったから。
他のものが、チームを組んで迎撃に行くだろうところを彼だけが、一人で敵とまみえるべく部屋を出て、歩き出した。

 

狭いリフトは、バトラーであるにしては珍しくリュウにとって戦いやすい空間だ。
遮蔽も多いため、遠距離から気づかれることもさほどなく、スナイパーやマギたちに接近してから戦うこともできる。
掌に収まるほどの大きさの反応爆弾をポーチから取り出し、起動スイッチをいれてから素早くリフトの壁へと投げつけた。
金属でできた壁に、マグネットの底がぴたりと張り付くのを見てリュウは近くの壊れたコンテナに身を隠す。
周りには味方のレンジャー達の姿はまだ、ない。
一人走ったリュウが最初に、邪公であふれかえったリフトの中に足を踏み入れたのだろう。
いや、待機中だった者たちもすでにきているのかもしれないが、リュウの傍には少なくとも、誰もいなかった。
心臓がどきどきと高く脈打っているのがわかる、体がかあっと熱くなって全身に血がめぐり、かたかたと細かく震えている。
それでも、目の奥、頭のあたりがすーっと冷たくなっているのもまた同時に、わかるのだ。
(ああ、今、おれの体は戦うために最適の状態になってる)
出力を最小に絞ったルビーメーザーの青白い光を見つめながら、リュウはふっとそんなことを思った。
ディクたちを引き付ける匂いを放つ合成肉をパックから出し、ぬるぬるしたそれをつまみだしてさきほど爆弾を設置した付近へと、放り投げる。
まだ邪公たちの足音は遠い、リフトはまだこの地点だと一本道みたいなものだから、ここで足止めできれば街まで邪公たちがたどりつくことはないだろう。
リュウは、望んでレンジャーになった。
己の生き方を己で決めようと思うのならば、D値に縛られずに志願すればなれる職業といえばレンジャーしかなかった。
身寄りらしい者もなく、後ろ盾はおろか、D値すらないリュウにとってそれは重要なことだった。
自分の生き方を自分で、少しでも選びたくてリュウ=1/8192はレンジャーとなった。
そして自分で選んだからには、誇れるようなレンジャーとなるべく努力をしてきた。
街を、トリニティやディクたちから護る頼れる存在、子供たちの憧れ、正義の味方のレンジャーたらんと。

(だから、おれは)

いま、ここにいる。
目を一度閉じると、ゆっくりと開いてリュウはポーチの中にもう一度片手をつっこんだ。
荒い息遣いとキィキィ言う声が聞こえてくる、すぐ近くだ、と薄暗い通路の先を見れば巨大でいびつな影が角の先からやってこようとしているのが、壁にうつりこんでいた。
数がどれほどかは、まだわからないが、先頭に立っているものはバトラーだろうか、まともにやりあえば万に一つもリュウに勝機はないだろう。
防具も身につけていないから、それこそ攻撃をくらえば殺されてしまうかもしれない。
メーザーの電源をカットすれば、手元を照らしていたわずかな光も落ちた。
スモッグでくもる空気をすいこむと、リュウはただ息をひそめて合図を待った。
邪公たちのもつ、粗末な武器がこすれあう音が聞こえてくる。
囮用の肉のにおいにひかれたのだろうか、ふぎふぎとブタのように鳴きながら(邪公のことはよく「ブタ」と評されるが、リュウも他のレンジャー達もほんとうのところブタとはなんであるか知らない)興奮しきった様子でかけてくる足音が聞こえた。
その直後、有効距離内に熱源が侵入したことを固定爆弾のセンサーが感じ取る。
爆音、キィィィという邪公たちの悲鳴。
それを合図として、リュウは衝撃で爆発するダイナマイトを煙の中に三本いっきに投げ込んだ。
ペンよりはやや太いくらいのそれは、携帯に適している上に爆発力もそれなりにあるもので、レンジャーにとっては必需品といえた。
続けざまの爆発に負傷し、恐慌におちいった邪公たちの中にリュウはつっこんだ。

 

ボッシュがリフトについたときにはすでに、先に出動したレンジャーたちが邪公を抑えにまわっていた。
むせかえるほど、ディクの汚らしい血のニオイがあたりに充満していてボッシュは顔をしかめる。
チームで、バディで、役割を分担しながらレンジャーたちは被害をとどめるようにしながら着実な戦い方をしていた。
指揮をとっていたらしきゼノが、ボッシュの姿を認め目を細めるもすぐに視線をそらし前線のほうへとやる。

「このまま前線は維持しろ、アシモフを出すこともないだろう。」
その言葉に、了解、とレンジャーたちがあたりまえのように答えた。
ボッシュは彼女の傍へ歩いて近づくと、つまらないとばかりに肩をすくめてみせた。
「あんだけ大騒ぎしたわりには、もう沈静化してるワケ?ちょっと状況を大げさに受け取りすぎてたんじゃあないの?」
「…いや、そうではない。報告にあった大物がこちら側にいっさい流れてきていないのだ。」
「大物?」
「バトラーに、ナイト。コマンドやマギくらいだな、こちらへきているのは。」

ふうん、とボッシュは気のない返事をしてから片手を腰にあててもう片方の手を軽く振った。
その小ばかにしたようなポーズにゼノの眉がわずか、不快そうにしかめられるのすら楽しむようにボッシュがにいと笑う。

「そういや、あいつは?あのローディー。ばたばた出て行ったのだけは見たけど。」
「…リュウの姿はまだ、確認されていない。もっと奥地まで切り込んだのだろう。」
「へえ、すぐ殺されて食われちゃったんじゃあないの?」
「ボッシュ=1/64、口を慎みなさい。」

ゼノはぴしゃりといいきると、眼鏡をくいともちあげてから、そうだとばかりに思いついたことを唇に乗せた。

「では、ボッシュ=1/64。今すぐに、パートナーであるリュウ=1/8192の捜索を命じる。」
「ハァ?」

捜索、といわれてボッシュは呆れたといわんばかり目を見張り、肩を落とす。
冗談だろ、と首を振る様子にゼノは小さく笑みを浮かべてからカツンと音をたてて床を靴の底で叩いた。

「バディはまだ解消されていない、片方の窮地を救うのはパートナーとして当然のことだ。邪公の群れの中、一人でつっこむことになるだろうが、きみなら問題ないだろう。」

問題、という言葉にボッシュの自尊心が煽られる。
その言葉に秘められた意味と、それがボッシュをかりたてるだろうことを知っていてこの女はこんな物言いをしているのだ、と彼本人にはすぐにわかった。
だが、それで引くわけにはいかない、わかっていても乗らずにはいられない問題なのだ…ボッシュにとって、強さの証明というのは。

「まあ、いいけど。そのかわりこれで俺がそいつ見つけ出したら、くだらないバディなんか解消して今後は一人でやっていい?」
「…いいだろう。」
「そういうことなら、ちゃちゃっとカタをつけてくるぜ。」

ゼノが仕方ないなと苦笑するのを見るやいなや、ボッシュはレイピアを構え足の先を前線へと向けた。
鋭く尖った切っ先をもちながら、どこか洗練されて優美な武器がその持ち主の立ち姿と重なって見え、ゼノは目を細める。
彼の相棒として組ませた少年と、自分の振るう肉厚で重たい剛の剣とはまったく違う柔の刃。

(二人が)

一歩一歩、まるで急ぐでもなく歩く金髪の少年の後姿を見ながら、ゼノはふと思いをめぐらせた。

(ともに、戦えば…きっと、おもしろいことになるのだろう。)

 

ガン!とバトラーの振るった大斧が金属でできた壁にめりこむのを見て、リュウは背筋が凍りつく思いがした。
リフトの奥、コンテナを積み込むためのステーションとして広くつくられた場所で、バトラーがいらだたしげに動き回っている。
そのほかには、破壊されたリフトが横に転がり、中にはいっていた食用ディクの食い散らかしがあたりに散乱しているのみである。
つみあがったコンテナの陰に隠れながら、リュウはぜえぜえと荒くなる息を整えようと必死で呼吸をくりかえす。
その体は、べったりと邪公のものらしき血で汚れていて、肩には大きく切り裂かれた跡がシャツを破り、ぱっくりと傷口をひらいていた。
傍には、やはり息を荒げているサードレンジャーが二人いた、二人ともかなりの重傷を負っているのか、転がった姿勢のまま動けないでいる。
切り裂かれた肩から、血が滴り落ちるのに構わずリュウは二人へなけなしの傷薬を与えていた。
無線機を握ったままの男は、命はまだあるが意識はない。
もう片方はリュウもよく知るサード仲間の女レンジャーだった、意識もすでに途切れがちなのか、目を薄く開いては閉じ、またすぐに精一杯の力で開ける、というのを繰り返していた。

「りゅ、りゅう。」
「喋らないで、あいつらに気づかれるから…。」
「あたし、しぬ?しん、じゃう?」
「死なないよ、手当てしてるから…あいつらはすぐ、よそへ行くよ。」

やつらがそう簡単にはよそへ行きそうにないことは、リュウには痛いほどよくわかっていた。
リュウが持ってきていたわずかな傷薬では、二人の失血をなんとか止めるのがせいぜいで…予断を許さない状況なのだということも。
あれから、突っ込んだリュウは邪公たちの気をひき、先へ進ませないようにということだけを考えながらリフトの奥へ奥へと走った。
ダイナマイトや固定爆弾、ねむりキノコなどを使いながらなんとか距離をつめられないようにしながら、迷路のように入り組んだリフトの中で、少しだけ群れから離れたマギやスナイパーたちを数匹屠った。
それでも、バトラーなどという難敵を相手にすることはできず、逃げることが精一杯だったのである。
逃げ込んだステーションで、破壊されたリフトを見てから、地面をはいずった血の跡をみてまさかと思いコンテナの陰へきてみれば二人が倒れていたのだ。
報告をしたレンジャーなのだろう、とすぐ思い至ったリュウは、死に掛けている二人を見捨てることができずにここにとどまった。
幸いにして彼らがなんとか斃した邪公の死体があったので、その体を裂いてかわきかけた血をしぼりだし、彼ら二人の人間の血のニオイをなんとかごまかし。
己のにおいをごまかすためにも、邪公の血を頭からかぶった。
赤い血は、人間と同じ色をしていて、ディクのものなのか己の肩からにじんだものなのかまざってしまえば区別はつかなくなる。

「りゅ、しに、たくないよぉ…。」
「大丈夫だよ、死なせない…大丈夫だから。」

囁くような小声で、さまよう手を握り締めてリュウはただそう言い聞かせた。
だが、すでに頼るべきトラップも薬もつきた、武器だけは己の手の中にあっても、それで太刀打ちできる相手でないことは自分が一番良く知っている。
だけれども、戦うしかないだろうと思い始めていた。
彼ら二人を見捨てて、己は逃げられるほどリュウという人間は弱くも強くもないのだ。

「りゅ、りゅう、あ、ああ、あ…。」
「しっかり、大丈夫だから、しっかりして。」
「いやあ、目が、くら…しぬのはいやああ!!」
「!」

じりじりと失われる体温、ぼやける視界、危機的な状況に追い詰められて彼女はとうとう大声で泣き叫びはじめてしまった。
リュウは、ぐっと顔をゆがめると傍らにおいてあった剛剣へと手を伸ばす。
彼女の手がぎゅうとリュウの手をつかんで離さない、利き手ではなく逆手で武器をたぐりよせると、慣れぬ逆手でその柄を握りこんだ。
手を彼女につかませたまま、声を聞きつけた邪公たちがやってくるだろう方向へと剣の切っ先を向けた。
膝立ちになった不安定な姿勢、体も完全にそちらへむけることはできない。
剣を向けること事態、気休めにしかこの状況ではなりそうになかった。
手を離し、逃げれば自分だけは助かるかもしれないとぼんやりと思えたが、リュウにはそれをする気はなかった。
どこにも、そう、どこにも。

「大丈夫、おれが…守るから。」

告げた声は彼女に届いていたかどうかもわからず、震えているものだったけれど、そう口に出すことでそれを己が成せるような気になれた。
バトラーがどすどすと足音をたてながら向かってくる、それにぎゅっとリュウは口をひきむすんだ。
巨大なディクがぬう、と壁とコンテナの間のわずかなスキマを覗き込み、そこに獲物をみつけたことににいと笑ったようにリュウには見えた。
大斧がふりあげられ、リュウは目をつむってしまいたくなるのを堪えてかっと逆にそれを見開いてみせた。
見ていれば、あの攻撃を少しでもはじいて反らせるかもしれない、というように。

「まったく、ホントウに救いようがないローディーだな、おまえ。」

人間の声があたりに、不意に響いた。
まだ若い男の、いや少年の声で、ヒトを小ばかにするようないやみったらしいトゲがぞんぶんにちりばめられている。
その声に聞き覚えのあるリュウが、え、と目を瞬かせると同時にバトラーの胸を突き破って鋭い金属のトゲが生えた。
びくんっ!と体を痙攣させて巨大なディクの動きが止まる。

「守るってなんだよ、無茶苦茶いってんなよな。弱いくせに。」
「…ボッシュ?」
「タメで呼ぶなっていうんだよ、ローディー。」

驚愕で目を瞬かせるリュウに対し、ここが戦地であるということすら気にしていないようなボッシュの物言いは奇妙に浮いてあたりに響いた。
どう、と崩れ落ちたバトラーの向こうに、息をあげてもいなければ、返り血もほとんど浴びていない金髪のレンジャーの少年が現れた。
レイピアを構えたまま肩をすくめた少年の、やれやれという顔にリュウはほっとしたように息をはいて、それから少しだけ笑った。
血まみれになりながら笑う様子に、気でも触れた?とばかり頭を指差してくるりとボッシュは指を回す。

「助けにきて、くれたんだね。」
「命令だからな、これでおまえを回収できればパートナー解消してもいいってゼノのやつがいうからさ。てか、死んでなかったんだね、おまえ。」

最後の一言は意外だとばかりに言うと、ボッシュは改めてリュウの姿を見た。
煤と埃と、血でどろどろに汚れていて、くくっていた髪もほとんどがほどけてばらばらになり落ちている。
ぶざまな戦いをへて、ようやくここに逃げ込み、役にも立たないローディーのサードを助けようとやっきになったのだろう。
本当に、バカなやつだ、この1/8192は。
リュウはそんなボッシュの考えなど気づきもせず、「あ」という顔をしてからボッシュのほうへ手を伸ばした。

「薬をもってたらくれるかな、彼女たちの手当てをしないと。」
「自分の肩はいいのかよ、そいつら多分もうすぐ死ぬんだし。使うだけ無駄。」
「手当てをすれば助かるよ、おれの肩は今すぐじゃなくても平気だし。」

その言葉と、心底ソウ思っているらしいまなざしにボッシュはためいきをついた。
本当にばかなローディーだ。

 

リュウが女レンジャーを、ボッシュが男のほうを担ぎながらあらかた掃討の終わったリフトを並んで歩く。
線路の上を歩くボッシュは、ぶつぶつとなんでこの俺が、とか呟いてはいるが素直に彼を運んでくれている。
リュウはなんだかその姿が嬉しくて、顔がにやけてしまうのを隠すことができなかった。
ゼノからボッシュと組んでくれといわれたときは、どうして自分なんかに、と正直おもった。
相手は1/64のエリートで、天才で、なおかつ性格的にかなりの難がある人物だと聞いていた。
噂はいやでも耳にはいってきたし、時折基地の中で見かけることはあった。
金髪を短く切って整えた、緑の目の彼はいつでもつまらなさそうに不満そうな顔ばかりをしていて、周りをばかにするときだけイヤミったらしく笑うのだ。
だから、身構えていた、きっと噛み付かれるのだろうと。
予想どおりボッシュは噛み付いてきて、リュウもこれはだめかな、と諦めかけていた。
まだ半人前だからと、バディもチームもなく、それゆえに任務らしい任務に出させてもらえなかったリュウにとっては待ち望んでいたパートナーだったから、できるならうまくやりたかった。
それがダメそうだ、と思って諦めていたのだが、ボッシュの今の様子はリュウの中ではうまくやれそうだと考えなおすに十分だった。

「ボッシュ。…帰ったら、おれとのバディは解消するように、言うんだろう?」
「そーそー、それで一人で任務をやれるようにしてもらうのさ。」
「…そうか。おれは、ボッシュ、きみが相棒だったらいいのにって思うよ。」
「ハァ?」

ボッシュはぴたりと足を止めてから、隣のリュウの少しだけ笑った横顔を見た。
リュウの浮かべる表情はいつだって淡くて、平坦でナニを考えているのかわからないように見えるところがあるのだなとボッシュは思った。
困った顔も、笑い顔も、どれもじっと見ていないとわからないようなささやかな変化でしかない。
それでも、声のトーンとまなざしが硬い表情のかわりに感情をよく表していた。
どの言葉も、リュウの本心から生まれたものだろうということをその二つが物語っている。

「俺の相棒になりたいだなんて、バトラーも一人でいなせないようなローディーが言い出すのには百年早いよ。」
「そうか、そうだね。」

ボッシュの言葉に、リュウが笑う。
そこでその話はおしまいになり、二人はゆっくりと街のほうをめざして歩いていった。

 

担いできた二人をメディカルルームへ運んでから、二人はゼノ隊長からそれを褒められ(まさかあのサードレンジャー二人が生きて戻ってくるとは、彼女も思っていなかったに違いない)そのまま、部屋へと戻された。
リュウもボッシュもシャワーをあびてから、他愛のない話をすることもなく二段ベッドにもぐりこんだ。
特にリュウは、そこで改めてボッシュと話をするほどの体力が残っていなかったというのが正しいところだろう。
泥のように眠り込んだリュウの寝息を聞きながら、さほど疲れているわけではないボッシュは天井をじっとながめていた。
あの時、リフトにザコを切り捨てながら入り込んだときに見たものを思い出しながら、天井のわずかなしみを見つめる。
そこには、破壊と殺戮の跡が明らかに残っていた。
爆薬によるトラップで、かなり多くの邪公たちが深手をおっていたであろうことは間違いない。
そして弱ったものたちは、太刀で切り伏せられていた。
それを成したのが、自分の相棒にわりふられたおとなしそうな少年であろうことは、疑いの余地はなかった。
ローディー仲間を守ろうと、剣をとりまっすぐ敵に目をむけていた表情が頭にこびりついて取れない。
ごろりと寝返りをうち、天井から目をそらすとボッシュは目を閉じた。
二段ベッドの下で眠る静かで規則正しい寝息は、自分が確かに今、他人と近い場所にいるのだと彼に教える。
広いばかりで、自分以外のなにの気配もない寝室を思い出すと体が急に冷えた気がしてボッシュは毛布をたくしあげ、肩まで覆った。
リュウの寝息を聞くうちにボッシュにもまた眠りの波がおしよせる。
悪くない、と唇だけが誰にも読まれぬ言葉を刻んだ。

 

翌日、ボッシュはリュウに対してナニも言わなかった。
朝になり、歯磨きと洗顔をして、食堂で朝食をとる間もボッシュのほうからは一言も話しかけてはこない。
リュウも、そんな彼になにといって話しかけたらいいのか考えあぐねて結局黙ったままだ。
奇妙な雰囲気の二人に、昨日のことを聞こうとしていたほかのレンジャーたちも遠巻きに見つめるのみ。
朝食が終わり、レンジャースーツに着替えるために二人はやはり黙ったままロッカールームへと向かった。
リュウが自分のロッカーを空けると、今まで黙っていたボッシュが肩をすくめながらはじめてリュウに視線をむけた。

「おまえのロッカーは殺風景なんだよ。」

そうして言われた言葉に、リュウは目を瞬かせてから己のロッカーの中身をまじまじと見た。
それから、首を軽く横にふってからボッシュのほうへ目を向ける。

「そうかな。おれ、単に使うものしか入れてないだけだよ。」
「それが殺風景っていうんだよ。わかるか、ローディー」
「じゃあ、ボッシュみたくアイドルのポスターでも貼ればいいのかな。」

ちら、と見えた相手のロッカーの中、ほとんど何も着ていないも同然の女性がうつったポスターを思い出してリュウが少しだけ冗談の響きをのせて言った。
それに、にやっとボッシュが笑ってから乗る、手を軽く振ると、その手をリュウのほうへびしりと突き出した。

「そーそー。あと、なんだその三枚で10ゼニーぽっちみたいなシャツ。実用一点張りにしても色気なさすぎ。」
「そうかな。おれ、どうせすぐ破っちゃうし。」
「いいものは破れにくいんだ、もうちょっと考えて買えよ。」
「おれ、金ないから…。」
「どうせ武器や罠に使っちまうんだろう。」
「うん。」
「支給品だけでやりくりすればいいだろ?ったく、バカローディーは金銭のセンスゼロ。あとおまえ、トラップに頼りすぎ。」
「でも、接近するなら最小で留めたいし…。」

まるで言い訳のようなことを述べ始めたリュウに、ボッシュは相手へ向けていた手をくいっと自分を指差すように向けなおした。
ロッカーに片手をつきながら、どこかだるそうな姿勢のまま笑う。

「このボッシュ=1/64がいるんだ、おまえのトラップは補助程度でいいだろ。それだけで勝負つける必要、ないね。」

リュウは、その言葉に目を見開いてまじまじとボッシュの顔を凝視した。
なんだよ、とばかりにらまれてようやくそれをやめると、はにかむように笑いながら肯く。
今にも踊りだしてしまいそうな気分を抑えるため、リュウは大きく息をすいこんだ。

「え?…あ、うん。…そうだね。」
「まあ、トラップはまかせたからな、相棒。」

その言葉を言ったとき、ボッシュは。
はじめてリュウの嬉しそうな満面の笑みを見た。

 

二人がバディを組んでから、すでに一週間が過ぎた。
ぎくしゃくするところはあるし、あいかわらずボッシュはリュウのことをローディーと呼んでバカにしてはいるが、コンビ解消の話はあれ以来でていない。
今日もまた、朝食をとりロッカールームで二人並んでレンジャースーツへと着替える。
そのとき、リュウは大事そうにポーチから一枚の厚手のプラスチックシートを取り出した。
小さな長方形のそれを、ぺたりとロッカーの中に張ると弾んだ声で隣で着替えにいそしんでいるボッシュを呼ぶ。

「ボッシュ、どうかな。これで少しは殺風景じゃあなくなったかな。」
「ん?…こんな写真、どこから持ってきたんだよ。」

誘われるまま覗き込んだボッシュは、へえ、とどこか感心したように言った。

「アンティークのポストカードの、レプリカだよ。おれ、これすきなんだ…高かったけど、思い切って買ってみたんだ。」
「ふうん、まあ悪くないけどさ。…やっぱおまえなんか、人間らしくないよ。っていうか男らしくない。」
「ええ!?」

それってどういうこと、とばかりにリュウがすっとんきょうな声をあげるのにけたけた笑いながら、ボッシュは暗緑色のロッカーに貼られた鮮やかな色を見つめる。
鮮やかな、青い色に白い雲。
伝説でしかその存在を伝えられていないもの、“そら”の写真を。
 

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