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主にサークル小麦畑様のゲーム「冠を持つ神の手」の二次創作SS用ブログです。 他にも細かいものを放り込むかもしれません。
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『祝福の徴』・『あの子の思いは』
ユリリエ・タナッセ対話
ヴァイル愛情ルート

昼時のにぎわう広間の隅、一人でまずそうに茶を啜る従兄弟の姿をユリリエは見つけた。
別段それは珍しいものでもなんでもないはずだが、しばらく見かけなかった姿である。

「こんなところにいましたのね」
「……何の用だ」
「あら、従兄弟同士が交友を深めるのに用などいりまして?」

するっと隣に座る姿に、タナッセは視線をそらす。だが追い払いはしない。
ぶつくさ言う文句もなければ、すぐに席を立つこともなかった。珍しいことである。
ユリリエだって、タナッセに少々怖がられている自覚はあるのだ。わかっていてわかっていないふりをしているだけで。

「もうすぐ決まりますわね」

かける言葉、振る話題はそう、黒の月ももはや指折り数えるほどの日数しか残っていないのだからそれしかなかった。
第二の継承者が現れ、王位がヴァイルと争われた一年がじきに終わる。
どちらかが王となり、どちらかは負ける。それがどちらなのか、今のところなんともいえない。

「……ふん、この一年間引っ掻き回された。もうじきに終わると思うと清清しい気分だ」
「そう言うわりには、浮かない顔ですこと。もう少し素直になられたら?」
「くだらない。素直になるもなにもないだろう」
「はいはい、そう言うだろうと思ったわ」

手をひらひらさせるユリリエに、なら言うなとばかりにタナッセは目をつりあげる。
それでもぐっと言葉をこらえて、茶をもう一口啜った。
やはり何時もよりもおとなしい従兄弟を見て、ユリリエはふと笑う。

「出て行くのは、継承の儀の後でもよろしいのではなくて、タナッセ」
「……なぜお前、それを」
「お馬鹿さんの考えることなどお見通しだわ」

ころころと声をたてるユリリエに、タナッセは舌打ちした。本当に、こいつに適う気がしない。
幼い頃からの天敵なのだ。

「きっと、婚儀も取り計らわれることでしょう。盛大な式になると思わなくて?」
「……興味がない、あいつらがどうなろうと、私には関係ないだろう」
「あら、友人と従兄弟の結婚を祝福してあげないの?」
「くだらん。……お前は祝福してやるというのか?」
「ええ」

きっぱりと言い切れば、ユリリエは目元をやさしく細める。
その本性(と、長い付き合いのタナッセが思っているもの)を知らなければ、その無邪気な愛らしさで恋に落ちかねない表情だった。

「だって、ようやくあの子を諦めないでいてくれる方が現れたんですもの」
「……言葉の使い方に微妙な棘を感じるが、それはわざとか? ああ、わざとだろうな」
「あら、別にそういうつもりではないのに」
「ふん。お前こそ、当てが外れたのではないのか。寵愛者のどちらか、王となるほうに取り入るつもりだと踏んでいたのだがな」
「ええ、でもヴァイルは”ああ”ですものね。もう一人は……」

ユリリエはそこで言葉を切れば、タナッセの顔をじっと見つめる。
無言の圧力じみたそれに顎を引いてから、タナッセのほうが先に口を開いた。

「……お前とは大分、馬があっていたようだったが」
「その言葉はそっくりお返しするわよ、まさかあなたのようなお馬鹿さんとまで、なんて」
「しょっちゅう衣裳部屋でやれこれを着ろあれを着ろと、余計なことを吹き込んでいたな(※一緒に訓練)」
「図書室で額をつきつけあわせて、詩学について罵り合うなんて器用なこと、よくできたものね(※一緒に訓練)」
「……」

二人とも再び黙り込み、ユリリエが堪えきれないとばかりにくすくすと笑い出す。

「あの方とわたくしはとても似てましたもの、似すぎていて、配偶にという気は起こりませんでしたわ」
「お前はそんなだから……まあいい、そうだな。私とも少し、似ていた気がする。……今思えば、だが」
「どちらとも似ているあの方がおかしいのか、それとも、わたくし達が似ているのかしら」
「やめろ。お前と私が似ているなど、考えるだけで寒気がする」

そんな事を言いながらも、本当はわかっている。自分達は救いようが無いくらい似ていて、ヴァイルもリリアノもこの城も何もかも、同じように歪だったため噛みあうことがなかった。
からくりの歯車の足りない一つを、あのもう一人の寵愛者が埋めてくれたのだろう。
長く停滞の中にあったものが少しずつゆるやかに動き出した事がわかる、それに気づけないほど、自分達は鈍感ではない。
お茶のおかわりが運ばれてきたのを、タナッセは睨んだ。
ユリリエはそれを受け取り、当然のごとく口をつける。

「何処へなりとでも行けばよろしいですわ、でも、あの二人に心配をかけさせないようになさいませ」
「余計なお世話だ」

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