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ヴァイルが王となり、もう数年が経った。
冠と玉座を巡る争いに破れたものの、新王の親しい友人となったもう一人の寵愛者は文官長にまでその実力でもってして登り詰め、いまや城にはなくてはならない人物となっている。
思慮に富むアネキウス神は、ヴァイル王を助けるために彼の友となるものを遣わした。
そんな詩まで綴られる昨今ではあるものの……
「なあ、レハト」
「んー?」
王と文官としての忙しさも大分薄らぎ、前のように酒を飲める時間が大分増えた。
その貴重なお互いの安らぎの時間であったが、ヴァイルの顔は浮かない。
折角取り寄せた、珍しい果実で作った珍しい酒は、あんまり美味しくなかっただろうか。まあ売りは珍しさなので、確かに味はたいしたことはないのだが。
「またユリリエに嫌味を言われたんだが、お前も聞いてるか?」
「何だろう、俺の耳には入ってないよ」
「結婚のことだよ、結婚」
ああ。
レハトはそれでぴんときて、鷹揚に頷いた。
お互い男を選んで仕事一筋で来たのだ、大量の縁談はあったのだが、全てお断りして。
そろそろ身を固めろと、また言われたのだろう。
「ヴァイルは早くすればいいのに」
「俺はいいよ、子供も別にほしくないし」
「勿体無いね。きっとヴァイルの子供ならかわいいのに」
「子供ってかわいくないだろう、うるさいばっかりで」
そうでもないよ、と言うのは止めておいた。確かに子供は手がかかる。
レハトもそんなにしてまで欲しいわけではないし、彼が血を残したがらない理由はだいたいわかっていた。
無理強いをするようなことでもない。
「レハトはしないの」
「俺もいいよ、ややこしくなりそうだし、ヴァイルがしないなら」
「なにそれ、俺がしないからしないの」
「うん。しない。でないとこうして酒を飲む時間が、奥さんや子供に構う時間にもっていかれる」
その間、ヴァイルが一人になるのは嫌だ。それをはっきり言ったわけではないが、察したらしいヴァイルはやや眉間に皺を寄せて考え込んだ。
「……俺もそれはちょっとな」
「うん。だから俺はいい」
「いっそレハトが女を選んでたら良かったのに」
「どうかなあ、それでも結婚はしたかどうか。それに、男のほうがヴァイルの傍にいられるし」
「……ん?」
ヴァイルは首をかしげて、レハトの目を覗き込む。
そこに偽りがないかを確かめるような顔で。子供の頃は、そういう顔をよくしていた。
「何、じゃあ俺のために男になったの」
「最初からどっちでもよかったから、その方がいいかなって」
鏡を求めるようだったヴァイル。それなら、同じくらいの背丈と手の大きさになれる男でよかった。
ただそれだけだったし、下種の勘ぐりに遭うこともそうないだろうと思っていたのだ。
男同士なら、あれこれ言われずとも傍にいられるだろう。そうあさはかに。
あとは言った事はないが、そのほうが緊急の際に身代わりになれるかな、とか思っていた。
「……あー」
ヴァイルは寝椅子に転がるようにして、俯いて首を振る。
「男同士のくせに出来てるって噂流れてるらしいんだけどさ」
「嘘」
「お前のせいだきっと、くそレハト、そんなに俺が好き?」
「好きだけど、そんな言いようはどうかと。ヴァイルが結婚すればいいんだよ」
「いいよ、もう」
血を残すだけ、家同士の闘争に巻かれるだけの配偶者選びなど、お互いお断りだ。
それに、折角の理解者との時間を潰してまで、やる必要はあるか?
無いというだけの話だった。
飲むぞ、もう飲んでつぶれてやる、というヴァイルの手からレハトは酒瓶をひったくった。