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主にサークル小麦畑様のゲーム「冠を持つ神の手」の二次創作SS用ブログです。 他にも細かいものを放り込むかもしれません。
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タナッセとレハト。
まだ友情じゃない。

BGM:again/YUI

泥沼のようだとしかいいようがない。
それ以外のいかなる表現も、当てはまる事は無いだろう。

「あんたが悪い」
「貴様」
「悪いったら悪い」

ふてぶてしく唇を尖らせて言い放った子供の隣で、タナッセ=ランテ・ヨアマキスは膝を抱えて座っていた。
子供もまた同じ姿勢で座り込んでいて、むくれて不機嫌な顔を隠しもしない。よくそんな顔ができるものだ。
自分の口が思いっきりへの字に、眉がさかさまのハの字になっていることを棚に上げてタナッセは子供、レハトの顔を見て苦々しい気持ちになる。それというのも、ある日突然城にやってきたこの子供の外面がたいそう良い事を知ってるからだ。
はっきりいって、こいつと仲のいいヴァイルも母であるリリアノも、他の連中も全員騙されている。
嫌味を言っただけで本を顔を狙って投げつけ(しかも明らかに全力で)こちらの話を意図的に無視し、目をつりあげて怒り、隙あらば嫌がらせのためにだけ逃げ出し、ぶつかり、周りにわかるように煽る、侮蔑する、被害者面で泣いてみせる。
そのうえで陰で舌を出してたりするのだから本当に性質が悪い。
ぶつくさいいながら、それでも隣にいる相手との距離を離す気はなかった。というか離せるほど広くないのだ、ここは。
二人がいるのは、図書室の奥にある倉庫である。古文書や公文書のような普段は貸し出すどころか閲覧すら許可されていないような書物が多い。写本の原本などがほとんどだろう。かび臭さは表の比ではなかった。
その通路の一つに二人は詰まっている。目の前には崩れた本棚があって、丁度閉じ込められていた。

「あんたがあそこで、鬼の首とったみたく嫌味を言うから」
「価値もわからぬ本を物珍しさだけで見に来た阿呆に、本当の事を言っただけだ」
「まだいうかこのやろー」

肘がこつこつとわき腹に当たるのに、さらにむっとしてみれば子供の顔はますますぶすくれていく。

「大体だな、お前がまた安易な暴力に走ろうとするからだ」
「単に本を抜いただけだよ、本棚から」
「固くて抜けないのを、無理矢理力任せに抜くからこんなことになる」
「棚の建て付けが悪いんだよ。図書室の維持費ケチったりしてない?」

そろそろタナッセとしては「くたばれ糞餓鬼」と言いたいのだが、それだけはぐっとこらえた。主に、そんな汚い言葉を使うわけにはいかないという自負ゆえにだ。
そう。飽和状態にあった書棚から無理に本を抜いた結果、本棚が倒れたのである。凄い音がしたはずだから人が来てもおかしくないのだが、何故かまだ助けのようなものは来なかった。ここが奥の倉庫のせいだろうか。
時間はまださして過ぎていないだろう。だが、このままでいいわけはなかった。

「もうやだ。なんでこんなヤツと一緒に俺、閉じ込められてるんだろう」
「なっ 貴様、それは私の台詞だ」

本当に泥沼だ。こんなところで膝を抱えて座って、何時来るともしれぬ助けを待っているなんて、無駄な時間だ。
貴重な本を踏みつけるのは気が引けるが、本棚や本を乗り越えてでも出たほうが良さそうだ。

「おい」
「何?」
「お前は身だけは軽いだろう。さっさと本を乗り越えて助けを呼んで来い」
「イヤだ」

即答だった。思わずかっとなって、肩を掴んで顔をこちらに向かせる。睨みつければ、一瞬瞬いた後で相手もまた睨み返してきた。

「私が行けと言っているんだ、拒否権はない。お前にとっても、こんな所に私と一緒にはいたくないのだろう?」
「いたくないさ、でも命令は聞かない」
「なんて奴だ。自分で棚を崩しておいてそれか、もういい、私が行く」

肩を突き飛ばすようにして離せば、少し体が傾いて書架にもたれ直す。抜いたらしい本を抱えたままで、少し目を伏せた。どうやら、タナッセがここを出て行くことに関しては別に何もないらしい。当たり前だろうが。

「そこで助けを一人で待っているといい、私は呼ばないからな」
「お好きにどうぞ。別に期待なんかしてないし」
「もう少しかわいげというものを見せたらどうだ。ヴァイルや母上をそれで随分垂らしこんでいるようだが、私には体面を取り繕い、気に入られるように媚びる価値すらないとでもいうつもりか?」
「……そんなんじゃない」

棚に手をかけて、ぐらつくそれをなんとか乗り越えるために体を上にひっぱり上げた。案外あっさり乗り越えられそうだ、と思いながら後ろを振り向けば、まだ本を抱えて憮然としている姿がある。
このくらいならば、この子供ならば簡単に出ることができるだろう。そのはずなのに彼は動く気配がない。
それを見ながらもタナッセはレハトを置いて、本棚の間から無事外に出た。埃まみれになった服を着替えなければとまず最初にそれが思い浮かんで、倉庫に留まった寵愛者のことを忌々しくぶつくさ言うのは中断される。
そのままうっかり忘れてしまったとして、誰が王子を責められるだろうか?

 

外が妙に騒々しい、とタナッセが気づいたのは夕食の時間が過ぎてからだ。
自室で本を広げて静かな孤独に浸っていたというのにと、眉を吊り上げてからそれを極力頭から追い出そうとしたものの、ノックすらなしで部屋の扉が開かれてはそんな努力は無駄という他無い。

「タナッセ!」
「……ノックくらいしろ」

ひょこっと顔を出したヴァイルは、珍しく焦ったような顔をしていた。外が騒がしいのはこいつの仕業かもしれない。何をやらかしたのかは知らんが、と本だけ畳んで顔を見れば、ヴァイルは部屋の中をやけにきょろきょろと見回していた。

「いないよなー、当たり前だけど。むしろ居たらちょっと困る」
「何の話だがわからないが、失礼な事を言われたとはわかるぞ」
「そんなことはないよ。念のための確認だし」
「……何の確認だ。先にそれを言え」
「レハトがいない」

どこか切羽詰ったようなそのヴァイルの顔に、タナッセはふと昼間の出来事を思い出す。思わず呻いてしまった従兄弟を、ヴァイルは怪訝そうな顔で見たが、タナッセがそれ以上何も言わないことに顔をそらした。

「じゃあ、別の場所探してくる。もし見かけたら部屋に戻るように言っといて」
「待て、お前が探す必要はないだろう」
「俺が探したいから探すの」

どこかぶっきらぼうに言い放って、ヴァイルはすぐに部屋を出て行く。そういえば、やけにレハトとヴァイルは親しかった。やはり、同じ徴持ちであるから通じるところがあるのだろうか。中庭で二人して猫を追い回したりしているとか、酒を盗んで叱られたとか、そういうよろしくない話ばかり聞こえてくるが。
そのレハトの姿が見えない、というのにおそらく必要以上に過敏になっているのだろう。長い間、人を本当の意味で傍に置こうとはしてこなかったヴァイルにとってみれば、ようやく懐にいれていいと判断した相手なのだ。
いかなる巧みなおべんちゃらを使ったのかはわからない。よくぞ取り入ったものだと思う、自分に見せるあのままではとてもではないが、他の人間に取り入るようなことはできないだろう。
レハトがタナッセの予想通りの場所にいるとしても、このまま放っておいたところで、しばらくすれば見つかる場所だ。ただ、あれが本当にあそこにいるままなのかどうか?
ぐるぐると頭の中で回り始めた疑問や不愉快な感情を整理しきれずに、タナッセはため息をついてから腰をあげた。
控えていた大柄な衛士に声をかければ、そのまま図書室へと向かう。道中、誰もそれを咎める者はいなかった。レハトの部屋の前を通る時に、不安げにしている部屋付の侍従を衛士が宥めているところに遭遇した時だけは、ぴたりと視線がきたが。
それに返答をすることもなく、目もくれずに向かう。果たして、自分が少しの間いなくなったとして、これだけの騒ぎになるかどうかはあやしいところだな、と思いながら。

 

蝋燭の明かりを手にしながら、既に施錠されている図書室へと特別に鍵を持ってこさせて入った。担当の文官があのうるさいモゼーラ=キネ・トーキカではなくて助かった。いや、彼女ならすでにレハトを見つけているだろう。
そそくさと退散した文官が遠ざかるのを確かめてから、影のようなモルを伴って足を進める。倉庫にも足を向けてみれば、暗いそこに明かりを投げかける。蝋燭のたよりない炎を動かしながら進めば、未だ倒れたままの書棚が見えた。

「そこにいるのか」

声を投げても返事はなかった。眉を寄せながらゆっくりとそちらへと近づいて、モルへと顎で倒れた書棚を指すことでやるべきことを示した。彼はゆっくり頷いてから、本棚を立て起こして、場所を開ける。落ちた本ばかりは拾えないが、ひとまず道があればいい。モルを控えさせたままで棚の間に入り込めば、はたしてそこには思ったとおりの姿があった。
本を抱えて、じっと目を閉じている一人の子供。

「……」

まさか、この状況で寝ているとは。タナッセはもうこのまま帰ってしまいたい衝動に駆られるが、そこをぐっとこらえた。二度も見放された、とか触れ回られたのはでは堪らないからだ。
その肩に触れてゆり動かそうとすれば、触れる寸前でばっとレハトは飛び起きる。ぎょっとしてタナッセは手を引いた。

「……なんだ、あんたか」
「どうやらねぼけているようだな」

また目を閉じようとしているのを見て、一度引いた手を再び伸ばした。上腕を掴んで、無理矢理にひっぱる。嫌がるように腰を落として抵抗をしようとするも、レハトの体が少し浮く。その瞬間だった。

「痛っ」

レハトがあげた声にぎょっとして、タナッセは力を緩める。座り込んだレハトは、足首を押さえて少しばかり体を丸めていた。
タナッセはそれを見下ろしてからようやく、昼間のレハトの態度と、ここにいつまでも残っていたことの合点がいった。屈んでやることはしないながらも、眉を少し下げて同情じみた顔を向ける。

「怪我をしたのか」
「……うるさいな」
「そうならそうと言えばいいものを。モル」

名を呼ぶだけで、モルはタナッセの後ろからやってきて、レハトの襟首を掴んで持ち上げた。黙り込んでむっつりした顔をしているレハトは大人しく従い、そのまま、怪我人を運びなれているのかモルが横抱きにするのにも大人しくしていた。
まるで毛狩り後の兎鹿のような大人しさである。相変わらず本を抱えたままなのに、タナッセは眉根を寄せた。
それを手を伸ばして掴むと、離すまいとばかりに抵抗するが、それでも奪い取ってから埃を軽く払う。

「これは戻していけ、だいたい、こんなものをどうするつもりだったのだ。焚き付けにでも使うつもりだったか?」
「そんなことはしないよ。読みたかっただけ」
「……公文書だぞ」

ちら、とタイトルに目をやればそれが神殿絡みの書類にまつわるものだと解った。王城における神官たちは、王城にありながらも独立した権利を多く持っている。だから、たいした資料ではないのだろう。
読んだところで面白いわけがないし、そもそも読むようなものでもない。
それを起こした棚に放り込めば、レハトのやけに未練がましい視線を覚えてタナッセは少しだけたじろぐ。一体、あの本に何の意味があるというのだろう。

「なんだ、さっきから」
「まだ読んでなかったのに」
「読みものではない。いいから早く戻れ、お前がいないせいでヴァイルが飛び回るわ侍従は廊下で泣いているわで、はっきりいって落ち着かない。他人に迷惑をかけているという自覚を持つんだな」
「……そうなんだ?」

文句をつけてやったというのに、少しきょとんとした顔で首を傾げて、それから眉を思い切り寄せた。一瞬、見せてはいけないものを見せてしまったような恥じらいじみた表情が浮いて、それから消えうせる。
すぐに、いつものレハトの仏頂面だ。

「あんたが誰かに言ってれば起きなかった騒ぎじゃないの」
「よくもそんな責任転嫁が出来たものだな」
「バレたくないから、こっそり迎えに来たんでしょ」
「モル、放り出せ」

思わずそんな事を言うが、流石に怪我人を放り投げる気にはなれなかったらしい衛士はただ肩をすくめただけだ。
レハトも大人しく運ばれるままで、ただ、足首を時々かばいたがるように手が伸びる。ひねったか挟んだかしたのか、服の上からでは状態がよくわからない。医室に放り込んでやればいいだろう。
相手を床に放り出すかわりに、自分はもう戻ると言ってタナッセは一人で先に部屋へと戻った。相変わらず妙に騒がしい塔は、そのうち迷子が発見されたことで静かになるだろう。置き去りにしたことを後でヴァイルあたりにぎゃあぎゃあと、ユリリエあたりにねちねちと言われるかもしれないが、構うものか。
タナッセとしては、これでやることはやったと、そうすっきりできている。はずだった。

 

本棚が倒れるという事故で怪我をしたものの、レハトの足はしばらくの療養で治った。たまたま夜中に図書室へ行ったタナッセが見つけて、医室に運ばせたという話は悪評を覆すまではいかないものの、二人目の継承者との不仲の噂を少しばかり修正はしたらしい。微々たるものだが。
図書室で本を読むレハトの傍らには、まだ念のためと渡されている杖がある。こんな暴力的なやつに、こんな物を与えるべきではないと思うのだが、と隣にいるタナッセは眉をひそめた。

「……何故言わなかった」
「何を?」
「私が助けたという事になっていて、実に不愉快極まりないんだが」
「別に。事実を述べたまでというやつだし」

こそこそと周りに聞こえないような声の大きさで言いながら、ただ時々肩や肘で相手の体をつつく、押す。ほとんどはレハトがタナッセにしている事だが。

「ありがとうとか言ってほしい?」
「いらん。寒気がする」
「じゃあ、ありがとう」

じゃあとはなんだ、とむっとしてから、レハトのまだ字を追うのがたどたどしい視線を横顔に見つけて、やめた。何をそんなに懸命に読もうとしているのか。あの倉庫の、無味乾燥な本だろうか。

「あんなものを何故、読みたがっている」

自分の手元にある本を畳んで、ため息をわざとらしくついてやった。レハトは視線だけがこちらに向く。
答えはなかった。ただ、少しだけためらうような気配を感じる。言うべきかどうか迷っている、という沈黙だ。
ため息を盛大についた後で、レハトは観念したかのように口を開く。

「居たんじゃないかって」
「……?」
「母さんが……城に……」

それはひどく弱弱しい声で、普段のふてぶてしく傲岸な態度とはまったく違っていた。寄る辺がない者が、せめて天にある星のひとつくらいは自分のものにできないかと、無意味にも手を伸ばして空を掻くような愚かしさ。
絡み付いてくる現状からの、慰めのような逃げ道を探しているようなか弱さだった。
目を伏せるレハトをぽかんと見つめて、タナッセは自分の脳裏をよぎった印象に自分自身でぞっとする。
わかる。一瞬そう思った。何が理解できるというのだろう、単なる子供の甘えにすぎないというのに。
しばらくの沈黙が必要だったものの、なんとか表情をいつもの冷笑に引き上げることができた。それが出来てから、わざとらしいため息をついてやる。

「何を期待している? お前の母親が城に居たことなどありえない」
「…………そうとは限らない」
「ふん、どうせ下世話な展開を期待しているのだろうな、お前のことだ。自分に高貴な血が流れているから徴が出た、とでも思いたいのだろうが」
「違う」
「徴に血は関係がない、母上とヴァイルはたまたまだろう。二人に温情をかけられて、何か勘違いをしたのかもしれないが――」

最後まで言い終わる前に、横っ面をはたかれた。後は何時もどおりの泥沼だ。子供じみた罵り合いと掴みあい。
ただし、何時もよりもレハトの力は強かった。

 

殴られた頭を濡らした布を当てて冷やしながら、自室で横になる。強く殴られたものだ、馬鹿力が。腫れそうだ。
タナッセは今頃、レハトも殴り返した頬を冷やしてるのだろうかと考えた。もっとも、そんなに強くは叩いていないのだが。
わかる、と思ってしまった一瞬のことを思い返した。タナッセが考えたような思惑でレハトが母の痕跡を探したとは限らないはずだが、それが正解だろうという確信がなぜかある。
歴代の王やランテと血の繋がりがもしあったとしたら、徴があるだけの闖入者ではなく、もっと正統な立場として迎えられるのではないだろうか。紗幕の向こうに楽しそうな景色をちらつかせておきながら、決して入れてはくれない場所に踏み込めるのではないだろうか。
城という場そのものがつきつけてくる隔たりを飛び越して、その懐の内に。
そこまで考えたところで、思考を打ち切った。あの子供に対する理解など示したくは無かった。
自分には徴だけがない。
レハトには徴だけしかない。
果たして、どちらにとってより、この城とそこでの生活は悪夢じみたものなのだろうか。比べたところで仕方がないことだった。
結局どちらもそこから逃げる事はできないのだから。
 

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