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主にサークル小麦畑様のゲーム「冠を持つ神の手」の二次創作SS用ブログです。 他にも細かいものを放り込むかもしれません。
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主人公が村にいたときの語り。
小ネタ。


雨の音は好きじゃないと常日頃から思っていた。
静かに垂れ落ちてくる銀の帳は、見るぶんには美しいのに。
何時頃からか、私はあまり口数の多い方ではなくなり、誰かに飛びついて甘えるようなこともなくなった。
性別の分化を行う儀式までは子供でいられる。だからもっと自由にしてもいいようなものだが、何故か私はもう大人なんだと自分に言い聞かせながら生きてきたような気がしていた。
雨は冷たい。辺境の小さな村で、身を寄せ合うように過ごす人々の上に、それは恵みではあるのに憂鬱だ。

「レハト、お母さんの具合はどうだね?」

降りしきる雨を眺めていた私に、村長がおずおずと話しかけてくる。私は慌てて、やりかけだった仕事を再開する。
この小さな村では、私のような子供だって働き手なのだ。脱穀が済んだ後の麦藁を柔らかくして、編んで袋を作るはずだったのに思わず手が止まってしまっていた。
母さんの具合なら大丈夫です、とそっと村長から目をそらして口にすれば「そうか」と気遣わしげな声が降ってくる。
数日前から体を壊した母は、私と二人で暮らす小屋で臥せったままだ。普段は母さんと一緒に行うこうした仕事も、私一人でやることになっている。私の返事を聞いた村長はそっと離れていった。悪い人ではないが、やっぱり少し距離感があるのは否めない。
赤子の私を連れてやってきた母を、この村の人々はややよそよそしいながらも受け入れてくれたのだ。それだけでも感謝をしなければならない。村外れの古い小屋に手をいれて、細々と暮らしてきた。
私達母子の土地や持ち物と言えるものは何も無いが、村人たちの手伝いをしながら糊口をしのいできたのである。
硬い麦藁を編むことに慣れた手は、目を閉じていてもそれを編み上げることができるのだし、刈り入れだって人並みには出来るし、森で食べられる木の実を取ってくることだって、若く細い木を切ってきて薪にすることだってできる。
ちょっとした罠で鳥や栗鼠を取ることも、土豚や兎鹿の世話もこなれたものだ。村の仕事で出来ない事は、やらせてもらえない事しかない。
たとえば土豚を屠殺して解体するような仕事とか、祭の神事とか。
レハトは何でも出来るね、とよく褒められたものだ。教えてもらっているのだから、出来るようになるのは当たり前なのだが。
それをそのまま返すとよく変な顔をされたのを思い出す。理由は未だによくわからない。
取り留めの無い事を考えながらも、誰より綺麗に編み目をそろえて編んでいく、こういった細かい作業は嫌いではなかった。
綺麗に作れれば、時々村にやってくる行商人が買い取ってくれることもある。それで、塩のような大事なものを買う。
そういう時はちょっとした達成感もあった。
作業が一段落して、手を止めた時もまだ雨は降り続いている。頭に巻いた布をちょっと直してから、両足を伸ばすようにして座りなおした。
母さんは今頃、ちゃんと眠れているだろうか。一応薬草は飲ませてあげたんだけれど。
昨夜は結構な熱が出てひやひやした。もともと、あまり身体の丈夫な方ではないのだろう。皮肉なことに子供である自分は、村で一番、大人より丈夫なほうだった。
風邪を引いても一晩で治るし、そもそも年に一度くらいしか引かない。
ふう、と息を吐き出してから首をぐるっと回した。頭の後ろを触ると、短い襟足に指が触る。
物心ついたときからずっと、私の頭には布が巻かれていた。額から頭の後ろ、てっぺん、と念入りにである。
生まれついて奇妙なあざが額にあるから、隠さないとみっともないといわれ続けてきた。いったいどこが奇妙なのかはわからないが、母さんと二人きりの時ですら、それが外されたことはほとんど無かった。
おそらく母さんこそが、私のその奇妙なあざを見たくないのだろう。詳しく聞いたことはあったが、母さんは何も教えてくれなかった。
それで喧嘩したこともあるが、一度も折れてくれたことはない。
もしかしたら、それは私に父さんがいないことと何か理由があるのではないだろうか。
そう思って落ち込んだことだってある。母さんは、私なんかを産んだから、父さんに追い出されたのではないのだろうか。
だとしたら父さんは酷い人間になってしまう。そうであって欲しいような、そうであって欲しくないような。
時々、何かひどく心細い気分になったときは、父さんがやってきて、母さんと私を迎えにきてくれるという空想で遊んだものだけれど今はそんなことすらしない。
もう少し、あと一年と少しで、私も成人の儀を受けることになる。
そうなればもう子供ではなくて名実ともに立派な大人になるのだから、母さんも色々と話してくれるのではないだろうか。
頭も、沐浴の時や篭りがあるから人に見せなければいけないだろうか。それだけが憂鬱だ。笑われることには慣れたけれど。
もっと小さい頃は散々な好奇の対象にされて、悪餓鬼どもにいたずらされたり、暇な大人に色々言われたものだけど、最近はそれすらなくなってきていた。
もはや、私の頭のことは皆そういうものとしてみているのだろう。
母さんが、布を巻くのに邪魔にならないようにと髪の毛を切る時しか、私の頭から布は外れない。天気のいい暖かな日は正直かゆかったりするのだけれど、それでも外してはいけないと言われ続けていた。
布の事はどうしても外したいわけではないし、もう慣れているからどうでもいい。
ただ――

作業の慰みのような思考の裏で、祭囃子のようにずっと流れていた雨音が消えた。外を見れば、何時の間にか雨は止んでいる。何か食べるものを持って、解熱の薬草を摘んで、小屋へ戻ろう。
出来上がった袋の、なめらかな編み目を撫でて満足を覚えながら私は立ち上がった。
雨に邪魔されなくなり、その輝きを地に再び注ぎ始めたアネキウスの光が目を焼き、少しだけ立ちくらみがした。

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