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主にサークル小麦畑様のゲーム「冠を持つ神の手」の二次創作SS用ブログです。 他にも細かいものを放り込むかもしれません。
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ヴァイル→レハトでまだ恋ではないような話。
村印象マイナスレハト。

BGM:Horizon(Omega Force Mix)


壁にほど近い辺境の村で見出された、二人目の寵愛者。
名を聞いたところで、風の音ほども記憶に残らないだろう村の名のかわりにその名だけ耳に残った。

「レハトだっけ、何時来るのさ」
「ヴァイル、おぬしそれを言うのを何度目だと思っているのだ」

大して面白いわけではない舞踏会の途中で、ヴァイルはリリアノの隣に居座りながら尋ねる。返事としては呆れた素っ気無いものだが、表情そのものはどこか柔らかかった。
既に夜半は過ぎて、お開きの気配がある宴の間を見下ろせる席、座ればすぐに飲み物が前に差し出されるのを当たり前として受け取りながらの、ささやかな伯母と甥の会話。とは言いがたいのは、どちらの額にもある王の徴のためか。
ヴァイルは未分化の子供らしい丸い目をぱちりと瞬かせてから、少しだけリリアノとの距離を詰めた。

「だって、待ちきれないし。伯母さんだってそうなんじゃないの」
「まあな。しかし迎えをやってまだ一日だぞ」
「そうだっけ?」
「急くものでもあるまい。……しかし、それ程までに楽しみか」

リリアノからの問いのようなそれに答える前に、ヴァイルは薄く作られた金属の杯を手に取り、そこに満たされた柑橘の香りのする水を飲み干す。
一息を入れている間に、おそらく自分の答えを整理しているのだろう。リリアノはまだ幼い横顔をちらと眺めた。
いつも舞踏会ではつまらなさそうにしているのだが、今日ばかりはどことなくはしゃいだ様子をみせている。
理由は察しがついていた。今宵の宴に、その話題はすでに渦巻いていたからだ。
もう一人の寵愛者――この時期に見出されたその存在に対する憶測、危惧、期待、そして様々な噂。
それにまつわる全てを、年若い王候補は聞き取っていたに違い無い。どういう気持ちであったか、はリリアノの憶測にしか寄らないものの、何となく解るものはあった。

「だって、来年俺が王になるのに、滑り込んできたみたいじゃん」
「ほう。それは神の意思だとでも言うのか?」
「別にそういうわけじゃないけれど、どういう奴なのか早く見てみたいし」
「羽が生えていたり耳が尖っていたりするわけではないと思うがな」
「壁の側から来るんでしょ、でも。向こう側とか見たことあるのかな」
「これ」

たしなめる声をかければ、ようやくヴァイルは黙ってただ笑った。足をぶらぶらと床につけるではなく揺らしている。
リリアノもまた自分の前に置かれた杯を取った。ぼんやりと、額に徴を持つ己の顔が映りこんでいる。それを気にすることなく口をつけて、己の杯に満たされた甘い酒を飲み干した。

 


思ったより地味な感じ。田舎で生まれ育ったから仕方ないのだろうが、最初の印象はそれだった。
城の高い窓から正門を見つめ、鹿車から降りてきたところを遠目に見ただけなのだからろくすっぽ見えてはいないのだが。
鹿車から降りたところを早速突撃、と行きたかったのだが、門のところでうろついている大柄な衛士の姿を見つけてヴァイルはその計画を変更した。おそらく従兄弟にして王息であるタナッセがいるだろう。
何か嫌な事を吹き込まなければいいけれどなあ、と思いながらも、その場に自分が出て行けばよじれるだけだということを解っていた。それに、まずは王であるリリアノにお目どおりといくのが筋だろう。
老侍従に付き添われて玉座の間へ入り、短い時間を置いて出たのを確かめる。まだ顔ははっきりとは見えないが、後姿はちらっと見て取れた。見たことのない地味で簡素な服装、背格好はそれでも自分と同じくらいか。
追いかけようとしたところで、玉座の間より出てくるリリアノを認めた。そちらへと足の行く先を変える。

「伯母さん、どうだった?」
「これ、ヴァイル。王に対し無礼が過ぎるぞ」
「いいじゃん、今くらい。ねえ、もう一人、どんな感じだった?」

人前でも、身内に対する一見気安い態度を崩さないヴァイルの様子にリリアノは笑ってたしなめかけるも、ヴァイルはそれを流した。周りの侍従たちはそんなヴァイルの態度にすでに慣れているのか、表情を変えることはない。
リリアノは、興奮で踵が地面に着いていないヴァイルを見下ろしてから、先の謁見のことを思い返した。
引き合わされた相手、もう一人の寵愛者は本当に、ただの子供だった。だが同時に、ただの子供と片付けてはしまえないものがあった。ローニカが道中で何か吹き込んだ、ということもないだろう。さすれば、子供の振る舞いと言葉は生来のものか。
少しばかり口の端を持ち上げて、リリアノはヴァイルを改めて見た。

「ヴァイルよ、そなたに少し似ておったよ。年恰好が同じだからであろうな」
「それだけ? そのくらいなら見てわかるよ」
「まだ人となりを知るほどの話はしておらんでな、ただ……」

ただ、そう。リリアノがもう一人の寵愛者、レハトなる子供に抱いた一つだけの感嘆がある。

「我はあれに、ただ城に居るだけでよい、王になる事は万に一つもありえぬと言った」
「なんだ、言っちゃったのそれ。つまらなくなるじゃん」
「まあ待て、まだ最後まで言っておらぬ。早合点するでない」

手を鷹揚に振って、唇を尖らせたヴァイルの視線を己の顔から逸らさせる。なら早く言え、とばかりのヴァイルの視線は少々うっとうしいほど強かったからだ。鹿車がここに来るまでの二週間もの間、ずっと待たされていたのだ。
少しでも、早く、知りたくてたまらないのだろう。
ありえるはずのない……もう一人の寵愛者を、城ではない場所で育った人間を。
歳が近い上に血縁ではない存在、というものすら知らない子だ。リリアノ自身の子であるタナッセを含め、近しい従兄弟たちはヴァイルも含め全員、少々ひねくれて育ってしまったのでろくに友と言える存在すら居ない。
その事はずっと気がかりでもあった。友を――対等な存在を求める心は、リリアノ自身にもよくわかる。最も、王というのはそれすらなく、ただ輝くしかない孤独なものでもあるのだが。

「レハトはそれを聞いてなお、王になるつもりがあるとはっきり言いおった」
「えっ、それ本当? それって伯母さんに逆らったってことじゃん」
「本人がそう捉えておるかはわからぬがな」

おそらくわかってはいないだろう。あの子供はおそらく、聞かれたから答えただけなのだ。それが嘘なのか本心かはわからない。
いや、権謀術数など知らぬ村の子供だ。王の徴があるからには王となるべきだろう、といういたって単純な思考をしただけかもしれない。もう一人の寵愛者のことは、知った上で。
ヴァイルの目を見れば、好奇心と期待で子供らしくきらきらと光っていた。

「へえ……そうか、ふうん……」
「余裕だな、おぬしにとっては玉座を巡る敵であるというのに」
「敵かどうかはわからないでしょ。まあ、負けるつもりは今のところないし、最初から弱気でおどおどされるよりそっちのほうがいいよ、俺」
「まあ、我も王になるのはおぬしと思うておるよ、ヴァイル」

後ろ盾も家名も教育もない、ただの子供だ。偶然授かった王の徴があれど、それだけで王になれるはずもない。
ランテ家の威光を背にし、城でただ王になるために育てられてきたヴァイルとは比べ物にもならないだろう。そう、そもそも王になどならなくて良いのだ。それでも城に招いたのは、在野にあられては困るからに過ぎない。そう、色々な意味で第二の寵愛者とは存在そのものが危ういのだ。その危うさにこのリタントを、そして甥や身内を晒す気はリリアノにはなかった。
話はここまで聞ければ満足だとばかりに、ヴァイルはリリアノの傍から離れて駆け出した。

「それじゃあ、俺、顔見てくる」
「あまり困らせるでないぞ」
「わかってるってー!」

はたしてどこまで解っているのやら。走り出して回廊の向こうに消えた背中を見て、リリアノは微笑みを浮かべた。
青い上衣が翻る残像を瞼に仕舞いこんでから、己も次の職務のために歩き出す。ずっと黙って、背景に徹していた従者たちを引き連れて、背を伸ばしたままで。

 

雨の日の屋上は、誰も居ないからヴァイルにとっての特等席のはずだった。
何時からか、時々レハトが来るようになったのだけれど。今日は流石に来ないだろう。さっき訓練場のあたりで見たし。
城にとっては異物であったはずの子供は、何時の間にかすっかりここに馴染んだように見えた。最初の頃は、それを嬉しく思ったものだけれど、段々それはわずかな不安に変わっていった。
気がつけば、レハトの周りには階層や階級を問わず誰かがいて、その誰かとは親しい間柄となっているようだ。なんのかんのと言いつつも、リリアノもユリリエも、タナッセですらあの子供を好いている。
あのどことなく怪しい老侍従やら、部屋付きの娘、図書室の小うるさい文官に、身体の大きな衛士。あと市のいんちき商人とか、男か女かわからない神官とか、とにかく顔見知りがあちこちにいるようだ。
それに嫉妬を感じる筋合いはないのだが、ヴァイルからすれば折角出来た「友達」を独り占めできないのは少し勿体無いような、悔しいような気分でいる。

「あーあー」

大きくため息をついてみせてから、雨で濡れた屋上の縁に腰を下ろした。
誰も居ない。見えない。煙るような雨は湖の対岸をちらりとすらも覗かせず、果ての無い海のような姿に変えていた。
ここは海ではないのはわかっている。だからこそ空想になんて浸れるのだ。
一人になれる時間なんかほとんどないから、ここに一人でいる時間は決して悪いものではない。そのはずなのに、奇妙な物足りなさがある。隣に誰かがいてくれればいいのに、一瞬だけでもいいから、と。
その誰か、のことを考えて、もう一度景色を見てみた。もう海には見えない、別のものに見える。
雪かもしれないし、霧かもしれないし、雲かもしれない。ただ、果てのない不透明な、一色で塗りつぶされただけのものだ。

「レハトは、どこから来たんだろう」

小さく呟きを落としてから、足を揺らす。彼が来たのは辺境の村だ。地図にすら載らない、壁に近い、名前を覚えることすら無意味に等しい場所だ。いや、母親はディットンの出で、神官だったか下働きだったかだったっけ。よく覚えていない。
レハト本人が、この城という場所に馴染んで、好いているようだから気にしたこともなかった。
他の人は知ってるのかもしれないが、レハトに故郷の事を詳しく聞いたことはなかったのである。聞きたくはなかった、というのもあった。それに自分からそういう事を話す性質ではないのだろう――というか、自分からあれこれ喋るというのをあんまりしない。聞かれれば答えるのだけれど、聞かない限りはあまり余計な口をきかないのがレハトだ。
口下手なわけではないだろう。舞踏会ではそれなりにうまく、踊りも歓談もこなすし、市でいんちき商人と一緒にいんちき商品を売ってる時は楽しそうだったくらいだ。
だから、彼が本当はどんな場所でどういう風に生まれ育ったかは知らない。
辺境の村から来たなんて嘘かもしれない。大嘘で、本当は雨と一緒に空から落ちてきたとか、海の向こうから流れ着いたとか、山の裂け目から這い出てきたとか、壁の向こうや、魔の草原の果てからやってきたのかもしれない。
誰が、彼をここに送り込んだのだろう。囲い込まれて腐ることなく、まるで乾いた土が水を歓ぶように、周りが教える全てを吸収していく様は既に人の口に上らない日がないほどだ。
最初の頃、一緒に食事をしたときはもたついていた指が、今は礼儀作法の申し子のように綺麗に動くようになっている。
なのに今でも、豆が出た時はこっそり貰ってくれるのがレハトだ。貸しひとつだよ、と言って、後で干し果物を一つ欲しがる。
彼はどこから来て、どこへ行くのだろう。宣言し続けている通りに王になる気なのだろうか。
勿論、そんなことをさせる気はなかった。ヴァイルは約束を果たさないといけないのだ、王になることが自分の全てでもある。
それでも時々、ふとそれが揺らぐ。一緒に衣裳部屋でユリリエに着せ替え人形にされた時、そっくりな体形を比べたことがあった。肩幅も腕の細さも、ほとんど変わりが無い未分化の幼い体。他人のそれを見るのもはじめてだった。
手の大きさが同じだと無邪気に比べあって、掌が重なった時には内心飛び上がりそうだった。勿論レハトにはそんな気はないのはわかっているし、すぐに離れたのだけれど。
そっくりな手だった。勿論レハトのほうが爪が短くて、節が少し目立っていて、侍従たちのような働く手をまだしていたけど。
だから、まだ今なら故郷に戻せば、村で行っていた通りの生活をはじめるのだろう。
でも、もしレハトが来た場所が地図には載っていないけれど実在する辺境の村ではなくて、どこか知らない、とにかく遠い、手を伸ばしても絶対に届かない場所だったらどうなるのだろう。レハトの事だからひょいと挨拶もせずに帰ってしまって、二度と戻って来ないのかもしれない。
胸が痛んだ。そんな事は嫌だ。でも、いずれそれを受け入れなければいけないのだろうか。
王がいかに孤独かは、伯母である現王リリアノを見ればよくわかる。自分もいずれああなるのだ。

「レハトは……」

でも、レハトは王になってもそうはならないのかもしれない。どこから来たのかすら定かではないくせに、どこにいても結局馴染んでしまう彼ならば。そう思えば言葉が切れた。ただ、世界の果ての海のような、湖を見つめる。
風の流れが一瞬変わって、扉が開いた。振り向けば先ほどまで考えていた相手の姿がある。

「あれ? レハト、どうしたの」

一瞬どきっとした。まるで神に見透かされた気分になりながらも、尋ねればレハトはためらわずに雨の中に踏み込んでくる。たやすく距離を詰めて、隣にまで到達し、当然のような顔で腰を下ろした。それから、湖を眺めてヴァイルには横顔を晒す。

「ヴァイルがいるかなと思った」

それだけ言うとすぐに黙り、ヴァイルはそれにどう言葉を返せばいいのかわからなくなる。それでも何かを言わないと会話にならない。レハトのことだから、ここで何かちゃんと振らないと一日ぼーっと黙ったまま隣に座るくらいやってもおかしくはない。
ヴァイルが追い返したり、しない限り。

「いるけどさ。そう毎日いるわけでもないよ」
「うん。雨は毎日は降らないしね」
「雨でも毎日はいないって」
「そうかな」
「そうだよ。第一、雨の日はいつも屋上にいるとかしてたら、もうバレてるし」
「実はバレてるけど、皆黙ってるとか」
「うわっ、それ凄いイヤなんだけど」

顔を見合わせれば、どちらともなく、ほぼ同じタイミングで笑い出した。雨が少し強くなってきているから、本当は早くレハトを部屋に戻してあげなければいけない。自分も戻らないといけない。
それでも、ヴァイルはぼうっと湖を見ているレハトの視線の先を探した。何も見えない。

「レハト」
「何?」
「レハトはどこから来たの?」
「村から来たよ」
「嘘だね、本当はどこか、もっと遠い場所から来たんだ、きっと」

そう言った時、レハトが珍しく困ったような顔をするのを見て、ヴァイルは本当に遠い場所から来たのかもしれない、と思った。

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