主にサークル小麦畑様のゲーム「冠を持つ神の手」の二次創作SS用ブログです。
他にも細かいものを放り込むかもしれません。
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タナッセ愛情B後
腕を組んでは解き、立ち上がっては座り、廊下を右へと歩けば足を止めてすぐに左へ引き返す。
そんな事を繰り返しながら、タナッセはただただ頭の痛みに耐えていた。
産みの繋がりと呼ばれる三足族に特有の現象によるこの痛みは、いままさに自分の子を宿した妻が頑張ってるために頂点に達しつつある。
だが臥せっているわけにもいかなかった。何より落ち着かない。
「まだか、まだなのか。遅くはないか?」
卵の殻を内側より破らんとする雛を待つ親鳥だとて、今の自分ほど待ち焦がれてはいないはずだ。
そう思いながら、時々不安が蛇のように首をもたげる。
子を宿してからの日々、タナッセにとってはまさに不安の連続だったのである。
まず、妻であるレハトは体が万全と言うわけではない身だ、その原因は自分にあるわけだが。
それでも、子を無事に育てて、臨月を迎えることができた。
勿論心配事はそれだけではなく――
はっ、とタナッセは顔をあげた。
元気のいい赤子の泣く声が聞こえてくる。思わず扉を破らんばかりの勢いで、タナッセは部屋へと踏み込んだ。
まず見えたのは憔悴したレハトの顔で、続いて産湯につけてもらっているまだ血の色をこびりつかせた赤子を見る。そこで思わず息を呑んだのだが、レハトはすまなさそうに眉を寄せながらも、口元を微笑ませて言った。
「ごめん」
赤子の額には王の徴があった。
母の腕に抱かれて乳を飲む我が子を、タナッセはぼうっと見つめていた。
「……これも因果というものか。逃れたと思っていたのだがな、そう容易くはないということか」
ぼそぼそと漏れた言葉に、レハトは顔をあげるもすぐに子供のほうを見て俯かせる。無心に乳を吸う子はひどく大人しく、どことなくタナッセに似ているように思えた。
「そうかな」
まだため息しきりの、その父親へ目を向けてから子の頭を撫でる。目を少しだけ細くして笑えば、首をそっと傾げて悲嘆に浸っているタナッセの顔をうかがった。まだ少し眉は曲がっているし、レハトの真意をはかりかねているとばかり、口も曲がっている。
それを見てレハトは、もっとはっきりと笑ってみせた。
「私は少し嬉しいけれど」
「……何を言っているんだ、お前は? 産みの痛みで螺子でも外れたのか? 王というのが……」
「わかってる、決して良いことではない」
ならば何故、とタナッセの目が問いかけてくる。レハトは子を抱きなおした。
「でも、私はヴァイルからタナッセを取ったみたいなものだから、これで」
「……いや待て、なんだそれは。何か前提からしておかしくはないか? 誰が誰から取られたと?」
「ヴァイルからタナッセを」
「……私はあいつのものだった覚えはないんだが」
「言葉の綾だよ。でも、仲は良かったし」
「お前とて別に悪くはなかっただろう、むしろ良かったのではないのか」
「まあね」
この場にいない、現王の顔を互いに思い浮かべる。彼に一報は行っているはずだが、まだ返事は無かった。
まあ、日数的にもきていないほうが自然なのだが。隠しだてもできないのだから、タナッセがいくら俯いたところで、王の徴だけは否定のしようもなく、子は近いうちにいずれ、城にやらなければいけない。
それでも、その徴に長年振り回されてようやく、それのことを考えずにすむ日が増えてきつつあるタナッセにとっては、運命からの酷い仕打ちであるのは違いなかった。
「とにかく、私はよかったと思うよ」
「……子を愛してはいな……いや、そういうことではない、か」
「私は」
タナッセに傍にいてもらい、色々あったがまあ、こうしてここで一緒に日々を過ごしている。
それはかえがたい幸せであり、子をさずかり産むのもまた、その流れの中で咲いた一輪の花であるといえた。
その花はおそらく、自分達のためだけに咲いたわけではないのだ。アネキウスが采配を振るうのならば。
レハトは、乳を含んだままうとうととしている子の頭をそっと撫でた。柔らかな皮膚と薄い髪が指に心地いい。
「タナッセに幸せにしてもらったから。この子がヴァイルを少しでも幸せにできればいいと思う」
「………………」
「少なくとも、まったく赤の他人の子供よりは気楽かなって」
「………………」
「さっきからなんでだま」
「黙れ」
タナッセはそう言うと、むっつりと黙り込み、赤い頬を隠すように手で触れた。
幸せに、なんて
どうしてそんなさらりと顔色も変えずにいえるのか、理解が出来ない。
いや、幸せでいてくれるようにずっと気を配ってきたのだが。そして子を奪われるというのは、幸せではないことのはずなのに。
ちりん、と外より鈴が鳴った。
侍従が、王城より鹿車が着いたことを知らせ、それにまさに王が乗っていると、うろたえながらに口にする。
レハトは笑い、タナッセは呻いた。唸りながらも通せといったその顔に、レハトは赤子の手を握る。
その温かさに目を閉じ、これからかわされるだろう仲の良い罵詈雑言を耐える支度をした。
そんな事を繰り返しながら、タナッセはただただ頭の痛みに耐えていた。
産みの繋がりと呼ばれる三足族に特有の現象によるこの痛みは、いままさに自分の子を宿した妻が頑張ってるために頂点に達しつつある。
だが臥せっているわけにもいかなかった。何より落ち着かない。
「まだか、まだなのか。遅くはないか?」
卵の殻を内側より破らんとする雛を待つ親鳥だとて、今の自分ほど待ち焦がれてはいないはずだ。
そう思いながら、時々不安が蛇のように首をもたげる。
子を宿してからの日々、タナッセにとってはまさに不安の連続だったのである。
まず、妻であるレハトは体が万全と言うわけではない身だ、その原因は自分にあるわけだが。
それでも、子を無事に育てて、臨月を迎えることができた。
勿論心配事はそれだけではなく――
はっ、とタナッセは顔をあげた。
元気のいい赤子の泣く声が聞こえてくる。思わず扉を破らんばかりの勢いで、タナッセは部屋へと踏み込んだ。
まず見えたのは憔悴したレハトの顔で、続いて産湯につけてもらっているまだ血の色をこびりつかせた赤子を見る。そこで思わず息を呑んだのだが、レハトはすまなさそうに眉を寄せながらも、口元を微笑ませて言った。
「ごめん」
赤子の額には王の徴があった。
母の腕に抱かれて乳を飲む我が子を、タナッセはぼうっと見つめていた。
「……これも因果というものか。逃れたと思っていたのだがな、そう容易くはないということか」
ぼそぼそと漏れた言葉に、レハトは顔をあげるもすぐに子供のほうを見て俯かせる。無心に乳を吸う子はひどく大人しく、どことなくタナッセに似ているように思えた。
「そうかな」
まだため息しきりの、その父親へ目を向けてから子の頭を撫でる。目を少しだけ細くして笑えば、首をそっと傾げて悲嘆に浸っているタナッセの顔をうかがった。まだ少し眉は曲がっているし、レハトの真意をはかりかねているとばかり、口も曲がっている。
それを見てレハトは、もっとはっきりと笑ってみせた。
「私は少し嬉しいけれど」
「……何を言っているんだ、お前は? 産みの痛みで螺子でも外れたのか? 王というのが……」
「わかってる、決して良いことではない」
ならば何故、とタナッセの目が問いかけてくる。レハトは子を抱きなおした。
「でも、私はヴァイルからタナッセを取ったみたいなものだから、これで」
「……いや待て、なんだそれは。何か前提からしておかしくはないか? 誰が誰から取られたと?」
「ヴァイルからタナッセを」
「……私はあいつのものだった覚えはないんだが」
「言葉の綾だよ。でも、仲は良かったし」
「お前とて別に悪くはなかっただろう、むしろ良かったのではないのか」
「まあね」
この場にいない、現王の顔を互いに思い浮かべる。彼に一報は行っているはずだが、まだ返事は無かった。
まあ、日数的にもきていないほうが自然なのだが。隠しだてもできないのだから、タナッセがいくら俯いたところで、王の徴だけは否定のしようもなく、子は近いうちにいずれ、城にやらなければいけない。
それでも、その徴に長年振り回されてようやく、それのことを考えずにすむ日が増えてきつつあるタナッセにとっては、運命からの酷い仕打ちであるのは違いなかった。
「とにかく、私はよかったと思うよ」
「……子を愛してはいな……いや、そういうことではない、か」
「私は」
タナッセに傍にいてもらい、色々あったがまあ、こうしてここで一緒に日々を過ごしている。
それはかえがたい幸せであり、子をさずかり産むのもまた、その流れの中で咲いた一輪の花であるといえた。
その花はおそらく、自分達のためだけに咲いたわけではないのだ。アネキウスが采配を振るうのならば。
レハトは、乳を含んだままうとうととしている子の頭をそっと撫でた。柔らかな皮膚と薄い髪が指に心地いい。
「タナッセに幸せにしてもらったから。この子がヴァイルを少しでも幸せにできればいいと思う」
「………………」
「少なくとも、まったく赤の他人の子供よりは気楽かなって」
「………………」
「さっきからなんでだま」
「黙れ」
タナッセはそう言うと、むっつりと黙り込み、赤い頬を隠すように手で触れた。
幸せに、なんて
どうしてそんなさらりと顔色も変えずにいえるのか、理解が出来ない。
いや、幸せでいてくれるようにずっと気を配ってきたのだが。そして子を奪われるというのは、幸せではないことのはずなのに。
ちりん、と外より鈴が鳴った。
侍従が、王城より鹿車が着いたことを知らせ、それにまさに王が乗っていると、うろたえながらに口にする。
レハトは笑い、タナッセは呻いた。唸りながらも通せといったその顔に、レハトは赤子の手を握る。
その温かさに目を閉じ、これからかわされるだろう仲の良い罵詈雑言を耐える支度をした。
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